ビジネス

東レ 1兆円契約でも悩みは尽きぬ「ボーイング商法」のリスク

 11月17日、東レは米航空大手ボーイング社と次世代大型旅客機「777X(トリプルセブンエックス)」の主翼など主要部に使用する炭素繊維を独占的に納める契約に基本合意したと発表した。

 契約は今後10年以上続き、供給総額は1兆円規模になる見通しだ。このビッグビジネス締結を受けて東レの株価は急騰し、2007年以来の高水準となっている。しかし、社内には不安の声も上がっている。

「確かに大きな契約だが、社内の反対意見は少なくなかった。ボーイングに年間契約の最低取引数量が課されていない上に、トラブル発生時に東レだけが高いリスクを負わされる契約内容だからです」(東レ社員)

 航空機産業には多数のサプライヤー(下請け)が存在し、ボーイングの場合は全世界で2万1000社に上る。そこで交わされる受注契約は実にシビアだと航空評論家の中村浩美氏が解説する。

「巨額ビジネスのため、発注元であるボーイングの立場が圧倒的に強い。厳格な品質保証や納期厳守を求めるのはもちろん、部品にトラブルが発生した場合、下請けが航空会社に対して賠償する契約が多いようです」

 2013年に「ボーイング787」に発煙や出火が相次いだ際、リチウムイオン電池を製造していたジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ)が責任を負わされた件は記憶に新しいところだ。

「ボーイングは事情説明のみで、国土交通省と米・国家運輸安全委員会(NTSB)はGSユアサにだけ立ち入り検査をした。電源システム全体に欠陥があり、複合的な要因でトラブルが生じたと見られるのに、立場の弱いGSユアサに原因が押しつけられた形です」(前出・中村氏)

 GSユアサは「生け贄」にされたともいえる。NTSBは今年9月、「最終的な原因を特定できなかった」との調査結果をまとめたが、一度失った信頼はなかなか取り戻せない。

 今回の契約では、同じケースが繰り返されるリスクをどう考えていたか。東レ広報は「交渉中でコメントできない」、一方のボーイング広報も「契約の内容に関することは一切お答えできません」との回答。

 いくら世界各国から東レやGSユアサの技術が評価されようとも、「ボーイング商法」の前には“弱者”となってしまう。米国が戦後長らく日本に「国産航空機製造」を許さなかった理由がよくわかるシステムである。

※週刊ポスト2014年12月12日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

高市早苗首相(時事通信フォト)
《日中外交で露呈》安倍元首相にあって高市首相になかったもの…親中派不在で盛り上がる自民党内「支持率はもっと上がる」
NEWSポストセブン
阿部なつき(C)Go Nagai/Dynamic Planning‐DMM
“令和の峰不二子”こと9頭身グラドル・阿部なつき「リアル・キューティーハニー」に挑戦の心境語る 「明るくて素直でポジティブなところと、お尻が小さめなところが似てるかも」
週刊ポスト
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン