ライフ

仕事を失った49才漫画家が未経験の介護職への転身描いた作品

【書評】『49歳未経験 すっとこ介護はじめました!』八万介助/小学館/864円

【評者】伊藤和弘(フリーライター)

 雑誌の休刊が相次ぐなか、仕事を失うベテラン漫画家も少なくない。50代の曽根富美子はスーパーマーケットで働きながら、「モーニング」(講談社)で『レジより愛をこめて』を始めた。本書も同じく、生活に困って49才で介護職に転身した漫画家によるエッセイ漫画だ。

 49才の男性が新しい仕事に就こうとしたとき、介護職は〈唯一残されたカード〉だった。なにしろ日本は65才以上の高齢者が人口の25%を超える世界一の高齢化社会。厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」によると、2000年に約55万人だった介護職は、著者が働き始めた2010年には約133万人と10年で倍以上に増えている。

 仕事の厳しさは想像以上だ。著者が何回言っても同じ行動を繰り返し、突然怒りを爆発させる認知症患者たち。慣れないと「便まみれ」になる恐怖のオムツ交換。死は日常茶飯事で、小さなミスでも人命にかかわる緊張感。自分の娘くらいの若い女性たちに「ハチ君」「オヤジ」と呼ばれ、アゴで使われる屈辱。パートから正社員になってもらった初任給は、手取り15万6848円だった。そんななか、離れて暮らす両親まで認知症を発症し…。

 それでも著者は仕事を続ける。3年の実務経験を積み、2014年に介護福祉の資格も取った。生活のため、だけではない。〈人とふれあう仕事って思っていたよりなかなか楽しい〉から。明るくかわいい絵柄は万人に読みやすく、どんなに深刻な事態もギャグに変える前向きな姿勢から元気がもらえる。誰にとっても他人事ではない「介護の現場」を知る上でも絶好の入門書だろう。

※女性セブン2014年12月25日・2015年1月1日号

関連記事

トピックス

どんな役柄でも見事に演じきることで定評がある芳根京子(2020年、映画『記憶屋』のイベント)
《ヘソ出し白Tで颯爽と》女優・芳根京子、乃木坂46のライブをお忍び鑑賞 ファンを虜にした「ライブ中の一幕」
NEWSポストセブン
相川七瀬と次男の凛生君
《芸能界めざす息子への思い》「努力しないなら応援しない」離婚告白の相川七瀬がジュノンボーイ挑戦の次男に明かした「仕事がなかった」冬の時代
NEWSポストセブン
俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
世界が驚嘆した大番狂わせ(写真/AFLO)
ラグビー日本代表「ブライトンの奇跡」から10年 名将エディー・ジョーンズが語る世界を驚かせた偉業と現状「リーチマイケルたちが取り戻した“日本の誇り”を引き継いでいく」
週刊ポスト
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン
豪雨被害のため、M-1出場を断念した森智広市長 (左/時事通信フォト、右/読者提供)
《森智広市長 M-1出場断念の舞台裏》「商店街の道の下から水がゴボゴボと…」三重・四日市を襲った記録的豪雨で地下駐車場が水没、高級車ふくむ274台が被害
NEWSポストセブン
「決意のSNS投稿」をした滝川クリステル(時事通信フォト)
滝川クリステル「決意のSNS投稿」に見る“ファーストレディ”への準備 小泉進次郎氏の「誹謗中傷について規制を強化する考え」を後押しする覚悟か
週刊ポスト
アニメではカバオくんなど複数のキャラクターの声を担当する山寺宏一(写真提供/NHK)
【『あんぱん』最終回へ】「声優生活40年のご褒美」山寺宏一が“やなせ先生の恩師役”を演じて感じた、ジャムおじさんとして「新しい顔だよ」と言える喜び
週刊ポスト
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト