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【書評】古本屋を営む作家ならではの年季の入ったエッセイ本

【書評】『本と暮らせば』出久根達郎・著/草思社/1600円+税

【評者】川本三郎(評論家)

 本をめぐるいい話が満載されている。自ら古本屋を営む出久根さんだけにさすが年季が入っていてどれも面白い。大石順教という尼さんがいた。子供の頃、養父の狼藉で両手を斬り落された。口に筆をくわえて書や絵を書いて名を知られた。小学校に行っていない。

 ある時勉強しようと思い立ち、本屋に行って辞書というものを買おうとする。店主はその心意気に打たれ『大辞林』を進呈した。後年、札幌の身体障害者の会の理事長に事情を話し、その書店主を探して欲しいと頼んだ。なんとその理事長の父親だった。

 勉強したいという子供に辞書を贈る。そういう奇特な書店主が昔はいた。本が大事にされていた時代だからだろう。出久根さんの好きな漱石や子規あるいは太宰治の話もあるが、埋もれた本や、雑本と思われる本の話が読ませる。

 出久根さんは縁日の露店に古本があると見逃さない。ある時、露店の古道具屋の隅に『昭和の記録』という本がある。録音テープのセットが付いている。

 テープには戦前の早慶戦や出陣学徒壮行会実況が入っている。ベルリン・オリンピックのかの前畑ガンバレ放送もある。お買得。家に帰って早速「前畑ガンバレ」を何度も聴く。何回言うか数えてみるのが笑わせる。

 ある時は、骨董市に行く。店主が「お客さん、図書館の絵葉書があるよ」と声を掛ける。珍しい。愛媛県の高校の図書館が落成した時の絵葉書だった。その先に感服する。出久根さんはこのことから以前、慶應の大学図書館の開館記念の絵葉書を買ったことを思い出す。

 開館の様子が知りたくてあれこれの本に当たる。ようやく見つける。内田魯庵の『気まぐれ日記』にあった。本好きならではの努力。

 映画の話もある。アイリーン・ダン主演の「ママの想い出」。われわれの世代なら誰でも知っている映画だが、その原作が戦後、日本で出ていたとは知らなかった。

※週刊ポスト2015年1月30日号

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