ライフ

直木賞受賞の西加奈子氏「サラバ!超える作品書かなあかん」

 直木賞受賞会見での軽快かつ飄々とした受け答えが話題を呼んだ作家・西加奈子氏(37)にとって、受賞作『サラバ!』(小学館刊)は19作目の小説にあたる。「書くこと」と真摯に向き合ってきた彼女を支え、成長させてきたものは何か。

『サラバ!』では家族との確執や学校での人間関係、果ては老いなど、すべてに距離を置き、逃げてきた主人公〈圷歩(あくつあゆむ)〉が、自ら引いた一線の外側へと踏み出せるかが終盤最大の読みどころでもある。

 状況が深刻さを増す中、西氏は「壁を乗り越える」でも「克服する」でもなく、「認める」「受け入れる」「祈る」といった、従来の成長小説とはまた違う、それでいて確かな主人公の変質を描き、外界とのしなやかな対峙の仕方が印象的だ。

「私の小説はいつもそうなんですけど、最初と最後で状況がほとんど変わらないか、もっと悪くなったりもする。ただそれも自分次第、気持ち次第で変えられるってことを、たぶんこれからも書いていくと思います。

 自意識がカラ回りして、過去の時間の中にあるものを否定したり憎んだりさせているのも、結局は自分の心やと私は思う。その変わらない状況と闘うとかじゃなく、認めてあげたらいいのになあって」

 どちらかといえば土着的で図々しく、それでいて圧倒的な生命力に溢れた登場人物が多いのも、西作品の魅力だ。特に地元大阪のサイン会では、そうしたオバちゃんたちが常に列をなす。

「あはは、うちが子供の頃、可愛がってもらった近所のオバちゃんたちです。『かなこ、大きなったなあ』『オバちゃん読んだで。泣けたわ~』って、デビューした頃からずっと来てくれはる。

 私自身、ああいう底抜けに明るくて優しくて、気持ちを出し惜しみせず大っぴらにできるオバちゃんたちに憧れているから、小説に書くんでしょうね」

 今後はどんな目標を掲げるのだろうか。

「もちろん書き続けます! 今回、あえて今の自分に書ける最高のものを書こうとハードルを上げたのも、今後も作家として書き続けていくため。いかにそれが難しいか、この10年で痛感したからこそ、限界に挑戦してみたかったんですね。

 さすがに書き終えてしばらくは腑抜け状態でしたけど、今後10年で『サラバ!』を超える作品を書かなあかん。それこそ選考委員の先輩方を見てると、まだあんなに努力してはるんやって思うし、頼もしい仲間もいるから、まだまだ走ります!」

●取材・構成/橋本紀子

※週刊ポスト2015年2月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

どんな役柄でも見事に演じきることで定評がある芳根京子(2020年、映画『記憶屋』のイベント)
《ヘソ出し白Tで颯爽と》女優・芳根京子、乃木坂46のライブをお忍び鑑賞 ファンを虜にした「ライブ中の一幕」
NEWSポストセブン
相川七瀬と次男の凛生君
《芸能界めざす息子への思い》「努力しないなら応援しない」離婚告白の相川七瀬がジュノンボーイ挑戦の次男に明かした「仕事がなかった」冬の時代
NEWSポストセブン
俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
世界が驚嘆した大番狂わせ(写真/AFLO)
ラグビー日本代表「ブライトンの奇跡」から10年 名将エディー・ジョーンズが語る世界を驚かせた偉業と現状「リーチマイケルたちが取り戻した“日本の誇り”を引き継いでいく」
週刊ポスト
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン
豪雨被害のため、M-1出場を断念した森智広市長 (左/時事通信フォト、右/読者提供)
《森智広市長 M-1出場断念の舞台裏》「商店街の道の下から水がゴボゴボと…」三重・四日市を襲った記録的豪雨で地下駐車場が水没、高級車ふくむ274台が被害
NEWSポストセブン
「決意のSNS投稿」をした滝川クリステル(時事通信フォト)
滝川クリステル「決意のSNS投稿」に見る“ファーストレディ”への準備 小泉進次郎氏の「誹謗中傷について規制を強化する考え」を後押しする覚悟か
週刊ポスト
アニメではカバオくんなど複数のキャラクターの声を担当する山寺宏一(写真提供/NHK)
【『あんぱん』最終回へ】「声優生活40年のご褒美」山寺宏一が“やなせ先生の恩師役”を演じて感じた、ジャムおじさんとして「新しい顔だよ」と言える喜び
週刊ポスト
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト