国際情報

「戦闘機で仇討ち出撃」説出たヨルダン・アブドラ国王の素顔

 イスラム国による空軍パイロット殺害動画の公開を受け、ヨルダン軍は2月5日にイスラム国への空爆を再開した。世界が驚いたのはその前日、「イラク・ニュース」など複数の中東メディアが「ヨルダンのアブドラ国王が報復のために自ら出撃する」と報じたことだった。

 国王自ら戦闘機の操縦桿を握って出撃するなど想像しにくいが、吉川卓郎・立命館アジア太平洋大学准教授(ヨルダン現代政治)はこう説明する。

「アブドラ国王はイギリスのサンドハースト王立陸軍士官学校の正規プログラムを修了した正真正銘のエリート軍人です。ヨルダン軍では特殊部隊の司令官を務め、数年前に出版した自伝では、1999年に37歳で国王に指名されるまで国家指導者となる気はなく、軍人として一生を終えるつもりだったと明かしている。

 軍部隊への思い入れは強く、数か月に1回のペースで迷彩服を着て部隊を訪問し、レンジャー部隊の訓練に参加してロープを伝って谷を降りたりもする。プロの軍人で、戦車やヘリでは実戦経験があって確かな操縦技術がある。ただし、今回報じられたように戦闘機を操って空爆できるかは疑問です」

 アブドラ国王はヨルダン軍で戦闘ヘリのパイロットを務めた経験があり、即位後も自ら王室政府公用機を操縦して外遊に出かけた逸話があるが、戦闘機乗りのキャリアはない。ヨルダン政府も「国王出撃情報」を公式に否定した。

 出撃情報が出回った背景には、情報に信憑性を与える国王のキャラクターがある。

 例えば国民の生の声を聞くために、変装して街に繰り出す。1999年8月にAP通信は、即位直後のアブドラ国王がタクシー運転手に変装し、2時間かけてアンマン市内を巡ったと報じている。警察官に道を聞くフリをしながら交通違反の実情を聞くなどした。

「白いつけ髭で変装し、半日間、病院のロビーで取材するテレビカメラマンを装っていたこともある」(北澤義之・京都産業大学外国語学部教授)

 そうした国王の行動についてジャーナリスト・鈴木美優氏は、「2代目カリフ(預言者ムハンマドの代理人)のウマールは市民になりすまし、民の声を聞いて政治に反映した。ヨルダン国民の間では、『国王はそれに倣っている』といわれている」と解説する。

 ヨルダン国内には数多くの部族が存在し、パレスチナ系の国民も多い。

「様々なグループがモザイク状に割拠する国だからこそ、国王は軍を含めたすべてのグループに不満が募らないよう心がけているのではないか」(前出・吉川氏)

 この国王なら殺害されたパイロットの“同志”として仇討ちに出てもおかしくない──そう周囲から見られているからこその仰天ニュースだったのだ。

※週刊ポスト2015年2月27日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン