イエスの姿を死後に見たパウロ最大の発明は、人は律法ではなく信仰によって救われ、ユダヤ人以外も救われるとしたこと。彼がそう確信した経緯を綴った手紙ならぬ論文は涙を誘うほど感動的で、この発見が結果的にキリスト教が世界宗教へと成長する礎を築く。

「ただし信じる者は救われ、律法も守らなくていいなら、迫害するより利用した方がいいとローマに利用された一面もある。2~3世紀にマグダラのマリアより処女マリア重視が固まるのも、前近代的な大家族主義をとる初期の教会にとって政治的に利用価値があったから。母に疎まれ、血縁を否定したイエスがもしピエタ像を見たら驚きますよ(笑い)」

 だが宗教と縁遠い日本人は聖書を教養として学ぶアドバンテージがなくもない。

「例えば私がかつて学んだ小室直樹(※注)博士は、非合理的な人間を合理的に解明する正当な学問を垣根を越えて追究した人で、中でも重視したのが宗教学でした。思えばホッブズもマルクスも宗教学を通過しており、一見非合理な宗教も、合理の塊の数学や物理学も全ては人間の上でクロスする」

【※注 小室直樹(1932~2010年):京大数学科や阪大大学院経済研究科、MITやハーバード等で各分野の世界的権威に学ぶ。帰国後は東大内の各ゼミを渡り歩く一方、自主ゼミを開講し、橋爪氏の他、宮台真司、副島隆彦、山田昌弘、大澤真幸ら各氏を輩出】

 氏自身、淡々と講義を進めるかに見えて、人間と宗教の関係を丸ごと解明しようとする情熱が本書でも見え隠れする。それは聖書という虚構に託された意図や歴史背景を読み取ってなお、人間の謎は深まる一方ゆえ、だからなのかもしれない。

【著者プロフィール】橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう):1948年神奈川県生まれ。東京大学文学部社会学科卒。同大学院社会学研究科博士課程を単位取得退学。2013年に東京工業大学教授を退職、現名誉教授。著書に『はじめての構造主義』『世界がわかる宗教社会学入門』『はじめての聖書』『これから読む聖書 創世記』等、共著『現代の預言者・小室直樹の学問と思想』『オウムと近代国家』等。大澤真幸氏との共著『ふしぎなキリスト教』『ゆかいな仏教』はベストセラーに。164cm、58kg、A型。

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2015年5月22日号

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