ライフ

川端康成の恋文 「恋しくて恋しくて僕は何も手につかない」

 昨今、思いを伝える手段はメールやLINEなど様々あるが、手紙でこそ伝わる思いがある。歴史に名を残した文豪、川端康成はいかなる恋文を書いていたのか。

 川端が大正10年(1921年)に書いた手紙が、2014年に1993年の時を経て、神奈川県鎌倉市の旧川端邸で発見された。当時の婚約者に宛てたものだが、未投函で日付や封筒はなく、正確な日時は不明ながら、11月初めに書かれたものと推測される。

 B5判の薄紙に青インクで書かれたその手紙には、川端の若き日の恋心が切々と綴られている。

〈僕が十月の二十七日に出した手紙見てくれましたか。君から返事がないので毎日毎日心配で心配で、ぢつとして居られない。手紙が君の手に渡らなかつたのか、お寺に知れて叱られてゐるのか、返事するに困ることあるのか、もしかしたら病気ぢやないか、本当に病気ぢやないのかと思ふと夜も眠れない。

 とにかく早く東京に來るやうにして下さい。恋しくて恋しくて、早く會はないと僕は何も手につかない。

(中略)

 君が悪く人から云はれる所は僕が皆代りに引き受けて上げる。お父様の方は安心していらつしやい。病気ぢやないか。病気なら病気とはがきだけでも下さい。君の思ふ通り書いて下さい〉

 川端は東京帝国大学の学生だった大正10年10月8日、7歳年下で当時15歳の伊藤初代と婚約した。だが、川端がこの手紙を書いた直後に、岐阜市の寺に身を寄せていた初代から、「私にはある非常が有るのです」と結婚を断わる手紙が届き、婚約は理由不明のまま破談となった。

 その後、川端は失恋の痛手を文学へと昇華させる。財団法人川端康成記念会の水原園博・東京事務所代表理事が語る。

「大正10年10月23日に初代から川端に届いた手紙には、『私の様な物でもいつまでも愛して下さいませ』などと愛が綴られていました。ところが、この手紙で一時的に初代からの便りが途絶えた。川端が新生活に向けて住まいや所帯道具、資金作りなどに奔走していた最中の音信不通でした。

 そんな状況の中で未投函の手紙が書かれたのでしょう。後のノーベル文学賞作家・川端康成ではなく、恋する一青年の哀しいほど純粋な気持ちが文面にほとばしっています」

 川端は初代との破談を経て、『文藝春秋』(大正13年12月号)で『非常』を発表。そこには、結婚の約束をしている16歳の「みち子」から非常を理由に婚約を破棄する手紙が届き、狼狽して岐阜に駆けつける様子など、まさに初代との関係がそのまま綴られている。

※週刊ポスト2015年5月22日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《いきなりテキーラ》サンタコスにバニーガール…イケイケ“港区女子”Nikiが直近で明かしていた恋愛観「成果が伴っている人がいい」【ドジャース・山本由伸と交際継続か】
NEWSポストセブン
11歳年上の交際相手に殺害されたとされるチャンタール・バダルさん(21)。千葉県の工場でアルバイトをしていた
【ホテルで11歳年下の彼を刺殺】「事件1か月前に『同棲しようと思っているの』と嬉しそうに…」浅香真美容疑者(32)がはしゃいでいた「ネパール人青年との交際」を同僚女性が証言
NEWSポストセブン
Mrs. GREEN APPLEのギター・若井滉斗とNiziUのNINAが熱愛関係であることが報じられた(Xより/時事通信フォト)
《ミセス事務所がグラドルとの二股を否定》NiziU・NINAがミセス・若井の高級マンションへ“足取り軽く”消えた夜の一部始終、各社取材班が集結した裏に「関係者らのNINAへの心配」
NEWSポストセブン
山本由伸(右)の隣を歩く"新恋人”のNiki(TikTokより)
《チラ映り》ドジャース・山本由伸は“大親友”の元カレ…Niki「実直な男性に惹かれるように」直近で起きていた恋愛観の変化【交際継続か】
NEWSポストセブン
保護者責任遺棄の疑いで北島遥生容疑者(23)と内縁の妻・エリカ容疑者(22)ら夫妻が逮捕された(Instagramより)
《市営住宅で0歳児らを7時間置き去り》「『お前のせいだろ!』と男の人の怒号が…」“首タトゥー男”北島遥生容疑者と妻・エリカ容疑者が住んでいた“恐怖の部屋”、住民が通報
NEWSポストセブン
モデル・Nikiと山本由伸投手(Instagram/共同通信社)
《交際説のモデル・Nikiと歩く“地元の金髪センパイ”の正体》山本由伸「31億円豪邸」購入のサポートも…“470億円契約の男”を管理する「幼馴染マネージャー」とは
NEWSポストセブン
米大リーグ、ワールドシリーズ2連覇を達成したドジャースの優勝パレードに参加した大谷翔平と真美子さん(共同通信社)
《真美子さんが“旧型スマホ2台持ち”で参加》大谷翔平が見せた妻との“パレード密着スマイル”、「家族とのささやかな幸せ」を支える“確固たる庶民感覚”
NEWSポストセブン
モデル・Nikiと山本由伸投手(Instagram/共同通信社)
「港区女子がいつの間にか…」Nikiが親密だった“別のタレント” ドジャース・山本由伸の隣に立つ「テラハ美女」の華麗なる元カレ遍歴
NEWSポストセブン
高校時代の安福容疑者と、かつて警察が公開した似顔絵
《事件後の安福久美子容疑者の素顔…隣人が証言》「ちょっと不思議な家族だった」「『娘さん綺麗ですね』と羨ましそうに…」犯行を隠し続けた“普通の生活”にあった不可解な点
デート動画が話題になったドジャース・山本由伸とモデルの丹波仁希(TikTokより)
《熱愛説のモデル・Nikiは「日本に全然帰ってこない…」》山本由伸が購入していた“31億円の広すぎる豪邸”、「私はニッキー!」インスタでは「海外での水着姿」を度々披露
NEWSポストセブン
優勝パレードには真美子さんも参加(時事通信フォト/共同通信社)
《頬を寄せ合い密着ツーショット》大谷翔平と真美子さんの“公開イチャイチャ”に「癒やされるわ~」ときめくファン、スキンシップで「意味がわからない」と驚かせた過去も
NEWSポストセブン