国内

空き家対策法 老後費用の乏しい高齢者を潰す悪法になる懸念

「空き家対策特別措置法(特措法)」が施行された。遠い郷里に親が遺した空き家を持つ人々は戦々恐々としている。

 行政から「特定空き家」に指定されれば、これまで「宅地」として減税されていた固定資産税を「更地並み」に支払わなければならなくなる。

 総務省の「住宅・土地統計調査」(2013年)によれば、全国にある空き家は約820万戸。実に「7軒に1軒」が住人不在の空き家だ。

 5月26日から施行された特措法により、市町村は倒壊の恐れや衛生上の問題などがある空き家を「特定空き家」に指定し、所有者に建物の撤去を命令したり、税制上の特例措置を解除したりできるようになった。

 新聞・テレビはこの問題を「空き家の撤去費用が地方自治体の財政を圧迫している」と、さも「行政側の危機対応」であるかのように報じている。

 しかし、これは官庁にいわれるがままに報じる大マスコミの思考停止に他ならない。行政(公権力)が強制力をもって「建物を壊せ」、「税金を上げる」と命令できるようになれば、苦しむのは、もともと弱っている「庶民」だ。広島大学大学院の由井義通教授(都市地理学)の指摘は鋭い。

「行政が建物の撤去や税制措置の解除を断行するのは、税収を上げる口実と批判されても仕方ない。地方では売れる土地は限られており、老後費用の乏しい高齢者を潰す悪法になりかねません」

 国の後ろ盾を得た市町村が次々と『特定空き家』に指定する危険もあるだろう。

 倒壊しかけていたり、悪臭を放つなど近隣に迷惑をかける危険な空き家もある。だが、ほとんどの所有者は空き家の解体費用を捻出できず、更地にしても土地が売れないことに悩んでいる。遠方に住んでいるために実家を恒常的にメンテナンスできない「八方ふさがり」に頭を抱える人も多い。

 数百万円かかる撤去や税制措置の解除は重い負担となる。税制の特例措置とは、どれほどボロボロでも建物が建っている限り、固定資産税の課税額が更地の6分の1になる措置のこと(200平方メートル超の土地の場合は3分の1)。つまり、特例措置の解除で税額は一気に6倍まで跳ね上がる。

 特措法は公権力を強化して国民を統制し、あわよくば税収を上げようという、いかにも安易な取り組みだ。本来なら国民が苦しむ「空き家問題」に行政が一肌脱ぐ対策こそ講じられるべきなのではないか。

※週刊ポスト2015年6月12日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

谷本容疑者の勤務先の社長(右・共同通信)
「面接で『(前科は)ありません』と……」「“虚偽の履歴書”だった」谷本将志容疑者の勤務先社長の怒り「夏季休暇後に連絡が取れなくなっていた」【神戸・24歳女性刺殺事件】
NEWSポストセブン
(写真/共同通信)
《神戸マンション刺殺》逮捕の“金髪メッシュ男”の危なすぎる正体、大手損害保険会社員・片山恵さん(24)の親族は「見当がまったくつかない」
NEWSポストセブン
列車の冷房送風口下は取り合い(写真提供/イメージマート)
《クーラーの温度設定で意見が真っ二つ》電車内で「寒暖差で体調崩すので弱冷房車」派がいる一方で、”送風口下の取り合い”を続ける汗かき男性は「なぜ”強冷房車”がないのか」と求める
NEWSポストセブン
アメリカの女子プロテニス、サーシャ・ヴィッカリー選手(時事通信フォト)
《大坂なおみとも対戦》米・現役女子プロテニス選手、成人向けSNSで過激コンテンツを販売して海外メディアが騒然…「今まで稼いだ中で一番楽に稼げるお金」
NEWSポストセブン
ジャスティン・ビーバーの“なりすまし”が高級クラブでジャックし出禁となった(X/Instagramより)
《あまりのそっくりぶりに永久出禁》ジャスティン・ビーバー(31)の“なりすまし”が高級クラブを4分27秒ジャックの顛末
NEWSポストセブン
愛用するサメリュック
《『ドッキリGP』で7か国語を披露》“ピュアすぎる”と話題の元フィギュア日本代表・高橋成美の過酷すぎる育成時代「ハードな筋トレで身長は低いまま、生理も26歳までこず」
NEWSポストセブン
「舌出し失神KO勝ち」から42年後の真実(撮影=木村盛綱/AFLO)
【追悼ハルク・ホーガン】無名のミュージシャンが「プロレスラーになりたい」と長州力を訪問 最大の転機となったアントニオ猪木との出会い
週刊ポスト
野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン