――会社の業務も忙しいなか、漫画家まんしゅうきつこさんと「アル中×財産喪失」と題したトークライブを開催ですね。
井上:そういえば、ゲーム関係を含めても女性とのトークライブは初めてですね。まんしゅうさんと純粋に会ってみたかったから決めたのですが『アル中ワンダーランド』に「初のトークイベントはこうして、”最初で最後”のトークイベントになりました」とあったので、断られるかもしれないと思っていました。出演を快諾いただけて、ホッとしています。
――まんしゅうきつこさんも現在のブレイクは漫画ブログがきっかけですね。ブログも自分の過去を描いていますが、そこでの画風との違いに驚きました。
井上:エッセイ漫画、とくに女性漫画家にとって作中で自分をどう描くかは大きな問題なんです。なぜ、いつもの画風と違う自画像なのか、文章と漫画で整合性がとれていない部分があるのはなぜか、まんしゅうさんには色々と聞きたいことがあります。
『監督不行届』での安野モヨコさんのように、本人は美人でも自画像を現実より可愛く描かない人は多い。でも、ケタ外れにヒットするエッセイ漫画では自画像が美しく可愛く描かれることが多いんです。ご本人も美人ですが『かくかくしかじか』の東村アキコさんは美しいですし、『毎日かあさん』では割烹着を着たおばちゃん姿の西原理恵子さんも『女の子ものがたり』や『パーマネント野ばら』など抒情的な作品では可愛い姿をしている。
――それでも安野さんは自分を三頭身のロンパース姿に、まんしゅうさんは不自然な面長にしてしまった。
井上:自画像が変わってしまうと、その漫画を描けなくなるんです。自分も違う絵柄で中国嫁日記を描こうとしてネーム(絵コンテ)が切れなくなりました。そして、エッセイ漫画に嘘は描けない。話を作ろうとすると、とたんに何も描けなくなります。それでも漫画に描きたい。まんしゅうさんもきっと、漫画にしたいアル中の実態に起承転結がないことで苦労したと思う。でも現実って、そういうぼんやりした、もやもやしたものなんですよね。
■井上純一(いのうえじゅんいち)1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。ひと回り以上年下の中国人妻・月との日常を描いた人気ブログ『中国嫁日記』を書籍化しシリーズ累計80万部を超えるベストセラーに。最新作は7月15日発売『中国工場の琴音ちゃん』(一迅社)。漫画家・まんしゅうきつこ氏とのトークライブは6月26日に新宿文化センター小ホールで開催。