安倍官邸による外交敗北を糊塗するため、安倍氏に近い官邸幹部は最近、周囲にこう話しているという。
「安倍首相が近くモンゴルを訪問し、横田めぐみさんの娘であるキム・ウンギョンさんと会う計画がある。被害者救出には繋がらないが、拉致問題の象徴であるめぐみさんの娘と首相が会えばパフォーマンスにはなる」
昨年3月に首都ウランバートルで横田滋・早紀江夫妻とウンギョンさんが面会を果たすなど、モンゴルはこれまで何度も日朝秘密交渉の舞台になってきた。
だが、日本の外交敗北はもはや隠しようがない。北朝鮮問題に詳しい関西大学教授の李英和氏が指摘する。
「いまの北朝鮮にとって、日本に配慮して拉致交渉を進めるメリットはない。再調査を約束した1年前は、北朝鮮は最大の支援国だった中国との関係悪化に加え、核・ミサイル開発放棄を迫るアメリカなど国際社会からのプレッシャーで八方塞がりの孤立状態にあった。そこで拉致再調査というエサをチラつかせて日本に接近し、包囲網に風穴を開けると同時に、あわよくば経済支援も得ようと目論んだ。
ところが、1年経って状況が変わった。ロシアからエネルギーや食糧支援を引き出せるようになり、国の窮状を打開するにはやはり中国との関係回復しかないと考え直した。金正恩の頭にあるのは9月に中国で行なわれる『対日戦勝利70周年記念行事』にどうやって出席するか。実現すれば中朝関係の修復を意味します。日本はすでに眼中になく、拉致交渉が大きく進展することは考えにくい」
拉致は国家権力による我が国の主権侵害である。これに正対し、問題解決に取り組まぬ政権が「国を守る新法を」と吠えても白々しい。
※週刊ポスト2015年7月10日号