京子の祖母役・白石加代子の登場にも、思わず唸らされた。白石といえば、早稲田小劇場出身の大ベテラン、アングラ女優の筆頭株。しかし彼女の持つ「毒」「狂気」の気配ゆえか、これまでテレビドラマに登場する機会は多くはなかった。しかし今回、白石は主要人物の一人として登場。かつて早稲田小劇場の舞台で私が出会ったあの異様な存在感を、今もなお放っている。
制作陣はきっと、吉田鋼太郎や田中泯といった最近の中高年個性派舞台人ブームを横目でにらみつつ、「白石加代子をいつ投入するか」と頃合いを見計らっていたに違いない。
さらに、五利良イモ太郎役の新井浩文、母役の薬師丸ひろ子、梅さん役の光石研、五郎役・勝地涼、よし子先生役の白羽ゆり……見れば見るほど、あっぱれなキャスティング。輝く個性を、きれいな星座のように見事に配置している。
●根底には一本の「哲学」
一見すると、ギャグドラマ。しかし根底には一本の「思想」が貫いている。
「いつまでも変わらないものなんて無い」
「昔はよかったなんて話はやめろ、今を生きろ」
「次の瞬間、もう失われてしまうのかもしれないのだから」
そんなメッセージが随所に隠されている。昭和レトロ風の舞台作りは、日本が青春だった時代、成長と発展を素朴に信じられた時代を現している。しかし、すでにその時代を私たちは失ってしまい、決して過去の栄光に戻ることはできない。
このドラマは「喪失」と「今」を描いている物語でもある。Tシャツから剥がれそうになっているピョン吉の目は、「老い」と「別れ」を暗示している。だからこそ、「今」の意味を考えよ、というメーセッジが効いてくる。
コミカルな軽さ、VFXと役者の力を拮抗させた映像的チャレンジ。そして、骨太なメッセージ。それらをひとつにまとめ上げていく演出家の腕力に脱帽。松ケンの「ど根性」がいささか冗漫で暑すぎるけれど、今後の展開に大いに期待したい挑戦的ドラマだ。