ライフ

【書評】時代に愛され時代に捨てられた黒川紀章の怒涛の生涯

【書評】『メディア・モンスター 誰が「黒川紀章」を殺したのか?』曲沼美恵著/草思社/本体2700円+税

【著者】曲沼美恵(まがぬま・みえ):1970年福島県生まれ。福島大学卒業後、日本経済新聞社入社。2002年にフリーになり、企業経営、人材マネジメントに関する記事を執筆。著書に『ニート フリーターでもなく失業者でもなく』(玄田有史との共著。幻冬舎文庫)。

【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)

 死の数か月前、唐突に都知事選に出馬。石原慎太郎の演説会場に押しかけ、裕次郎の持ち歌「銀座の恋の物語」を妻で女優の若尾文子と一緒に歌うといった奇矯な行動で「変人」の印象を残し、黒川紀章(1934~2007)はこの世を去った。本書は、その世界的な建築家の本格的な評伝である。

〈マスメディアの隆盛とともに大きな存在となり、彗星のごとく去っていった〉と著者は総括する。

 黒川は、1950年代の終わりから1960年代前半にかけて東大大学院に在学していたとき、他の若手建築家らと一緒に新しい建築理論「メタボリズム」を提唱し、数々の建築・都市計画案を発表し、国際的なデザイン会議に出席した。

 1972年に竣工した、従来の住宅の概念や住まい方を根本から覆す世界初のカプセル型集合住宅「中銀カプセルタワービル」は、大きな社会的反響を呼んだ。

 1970年の大阪万博の頃には若手建築家として他を圧倒し、政財界にも幅広く人脈を広げ、1983年には若尾文子と結婚してさらに一般の知名度を上げた。1985年のつくば博ではそんな黒川に注文が殺到し、なんと46館中11館の設計を担当したほどだった。日本を代表する建築家として海外での仕事も多く、評価も高かった。

 黒川の特異なところは、単なる建築家以上の存在になったことだ。高級ブランドのスーツを着て外車を乗り回し、インタビューを受ければ自信たっぷりの発言を繰り返す。若い頃からそうしたことがテレビや週刊誌で話題になり、設計した建築物以上に人物像やライフスタイルが知られた。いわば自分自身が作品だった。

 そんなあり方が大学時代の恩師から「タレント建築家」と批判され、建築を学ぶ学生から蔭では見下されて名前を呼び捨てにされた。しかし、本人は意に介さず、むしろ意識的にメディアを活用した。そうして黒川は1960年代以降に発達した大衆メディアによって時代の寵児となった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

学歴を偽った疑いがあると指摘されていた静岡県伊東市の田久保真紀市長(右・時事通信フォト)
「言いふらしている方は1人、見当がついています」田久保真紀氏が語った証書問題「チラ見せとは思わない」 再選挙にも意欲《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
13日目に会場を訪れた大村さん
名古屋場所の溜席に93歳、大村崑さんが再び 大の里の苦戦に「気の毒なのは懸賞金の数」と目の前の光景を語る 土俵下まで突き飛ばされた新横綱がすぐ側に迫る一幕も
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏、夫の音楽家・塩入俊哉氏(時事通信フォト、YouTubeより)
「結婚前から領収書に同じマンション名が…」「今でいう匂わせ」参政党・さや氏と年上音楽家夫の“蜜月”と “熱烈プロデュース”《地元ライブハウス関係者が証言》
NEWSポストセブン
学歴を偽った疑いがあると指摘されていた静岡県伊東市の田久保真紀市長(共同通信/HPより)
《伊東市・田久保市長が独占告白1時間》「金庫で厳重保管。記録も写メもない」「ただのゴシップネタ」本人が語る“卒業証書”提出拒否の理由
NEWSポストセブン
7月6~13日にモンゴルを訪問された天皇皇后両陛下(時事通信フォト)
《国会議員がそこに立っちゃダメだろ》天皇皇后両陛下「モンゴルご訪問」渦中に河野太郎氏があり得ない行動を連発 雅子さまに向けてフラッシュライトも
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏、経世論研究所の三橋貴明所長(時事通信フォト)
参政党・さや氏が“メガネ”でアピールする経済評論家への“信頼”「さやさんは見目麗しいけど、頭の中が『三橋貴明』だからね!」《三橋氏は抗議デモ女性に体当たりも》
NEWSポストセブン
かりゆしウェアをお召しになる愛子さま(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
《那須ご静養で再び》愛子さま、ブルーのかりゆしワンピースで見せた透明感 沖縄でお召しになった時との共通点 
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏(共同通信)
《“保守サーの姫”は既婚者だった》参政党・さや氏、好きな男性のタイプは「便利な人」…結婚相手は自身をプロデュースした大物音楽家
NEWSポストセブン
松嶋菜々子と反町隆史
《“夫婦仲がいい”と周囲にのろける》松嶋菜々子と反町隆史、化粧品が売れに売れてCM再共演「円満の秘訣は距離感」 結婚24年で起きた変化
NEWSポストセブン
注目度が上昇中のTBS・山形純菜アナ(インスタグラムより)
《注目度急上昇中》“ミス実践グランプリ”TBS山形純菜アナ、過度なリアクションや“顔芸”はなし、それでも局内外で抜群の評価受ける理由 和田アキ子も“やまがっちゃん”と信頼
NEWSポストセブン
中居、国分の騒動によりテレビ業界も変わりつつある
《独自》「ハラスメント行為を見たことがありますか」大物タレントAの行為をキー局が水面下でアンケート調査…収録現場で「それは違うだろ」と怒声 若手スタッフは「行きたくない」【国分太一騒動の余波】
NEWSポストセブン
かりゆしウェアのリンクコーデをされる天皇ご一家(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
《売れ筋ランキングで1位&2位に》天皇ご一家、那須ご静養でかりゆしウェアのリンクコーデ 雅子さまはテッポウユリ柄の9900円シャツで上品な装いに 
NEWSポストセブン