塚本監督がメガホンをとった『野火』(c)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER


塚本:こんな感じじゃないかと想像したままでした。みなさんいい加減ではなく、ご自分の意見をぎっしりと携えてすごいディスカッションになるんです。審査する場所も夢のような場所でした。ベネチアですから運河に浮かぶ舟に乗る。どこへ連れて行かれるんだろう?と。運河をずーっと行くと最後にプチって途切れるんですね。そこに着くと、広ーい庭園があって天国かと思うようなチョウチョがひらひら飛んでいる。

――イタリア貴族の屋敷というイメージですね。

塚本:そう、そこに一軒だけレストランがあるんです。そこで朝から晩まで1日かけてご飯食べながら審査する。すごくゴージャスなんですね。北野武監督の『HANA-BI』がグランプリに決まったときだったんですが、これから日本では大騒ぎになるぞというときに、その情報を知っているのはぼくだけ。そんなスペシャルな時間を庭園に出てチョウチョを見ながら、下見ると蟻がうじゃうじゃいたのを見ていた記憶があります。

【塚本晋也】
1960年1月1日生まれ。東京都出身。14才で初めて8ミリカメラを手にし、1988年に映画『電柱小僧の冒険』(1987年)でPFFアワードでグランプリを受賞。劇場デビュー作となった『鉄男 TETSUO』(1989年)が、ローマ国際ファンタスティック映画祭でグランプリを獲得。以後、国際映画祭の常連になる。ベネチア国際映画祭と縁が深く、『六月の蛇』(2002年)はコントロコレンテ(のちのオリゾンティ部門)で審査員特別大賞、『KOTOKO』(2011年)はオリゾンティ部門で最高賞を受賞。俳優としても活躍し、マーティン・スコセッシ監督の『SILENCE(原題)』(来年全米公開予定)に出演。

◇『野火』 塚本晋也監督が大岡昇平の戦争文学の代表作を、着想から20年以上かかって映画化。フィリピンのレイテ島を舞台に、日本軍から見放された兵士が原野をさまよう。死の直前における人間の極限を描く。7月25日から東京・ユーロスペース、立川シネマシティほか全国順次公開。

撮影■浅野剛

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