芸能

創作落語の名手・桂文枝 18年ぶりに古典落語に挑戦した理由

18年ぶりに古典落語を披露した桂文枝

 無一文の絵師が宿代代わりに旅籠の衝立に描いた雀が、朝日をあびると命を得て飛び立っていく──。今年3月に逝去した上方落語の巨星・三代目桂米朝が得意とした古典落語『抜け雀』である。7月16日、18年ぶりに古典落語に挑んだ六代桂文枝が高座に上げたのが、この噺だった。

 文枝はデビューから49年、今年で72歳になる。桂三枝時代から創作落語の名手として知られ、今春には250作目も披露している。すでに名を成した彼が、なぜ今になって古典に挑むのか。そこには現在の上方落語界に対する危機感があった。

「米朝師匠が亡くなられ、上方の古典落語は死んだとおっしゃる方までいた。それではあまりに悲しい。私は米朝師匠に『あとを頼むぞ』といわれた気がしているんです。以前から春風亭小朝師匠に『古典の面白さを伝えるのも落語家の大切な仕事ですよ』といわれておったことも大きかった。今こそ私がやるべき時や──そう思ったんです」

 古典への再挑戦の端緒に、米朝の当たり芸を選んだのはその思いがあったからこそだ。文枝の先々代(四代目)がかつて米朝に教えた話でもある。

 決して過去の踏襲には留まらない。創作落語作りの経験を活かし、文枝は自分なりの古典作りを始めた。

「オリジナルの舞台は小田原宿。神奈川県ですね。でも上方で演じるため登場人物の言葉は関西弁です。それではちょっと無理がある。だから舞台を枚方宿にしました。ほかにもオリジナルでは絵師の描いた雀の絵に小田原の殿さんが千両の値をつけるんですが、これも紀州の十代目徳川治宝にしました」

 噺がまとまればワープロを使って文字に落とす。仕事の合間に読み直し、これをさらに練り上げていく。この作業は本番直前まで続く。

 関西でデビューしても東京に拠点を移す芸人が多い中、文枝はあくまで上方にこだわっている。2003年には上方落語協会の会長を引き受け、その3年後には落語専門の定席・天満天神繁昌亭をオープン。高座にも定期的に上がり、地元のファンを喜ばせている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(クマの画像はサンプルです/2023年秋田県でクマに襲われ負傷した男性)
ヒグマが自動車事故と同等の力で夫の皮膚や体内組織を損傷…60代夫婦が「熊の通り道」で直面した“衝撃の恐怖体験”《2000年代に発生したクマ被害》
NEWSポストセブン
対談を行った歌人の俵万智さんと動物言語学者の鈴木俊貴さん
歌人・俵万智さんと「鳥の言葉がわかる」鈴木俊貴さんが送る令和の子どもたちへメッセージ「体験を言葉で振り返る時間こそが人間のいとなみ」【特別対談】
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン
佳子さまの“ショッキングピンク”のドレスが話題に(時事通信フォト)
《5万円超の“蛍光ピンク服”》佳子さまがお召しになった“推しブランド”…過去にもロイヤルブルーの “イロチ”ドレス、ブラジル訪問では「カメリアワンピース」が話題に
NEWSポストセブン
「横浜アンパンマンこどもミュージアム」でパパ同士のケンカが拡散された(目撃者提供)
《フル動画入手》アンパンマンショー“パパ同士のケンカ”のきっかけは戦慄の頭突き…目撃者が語る 施設側は「今後もスタッフ一丸となって対応」
NEWSポストセブン
大谷翔平を支え続けた真美子さん
《大谷翔平よりもスゴイ?》真美子さんの完璧“MVP妻”伝説「奥様会へのお土産は1万5000円のケーキ」「パレードでスポンサー企業のペットボトル」…“夫婦でCM共演”への期待も
週刊ポスト
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン