ライフ

【書評】震災時の各国支援と放射能問題への世論の動きを検証

【書評】『大震災に学ぶ社会科学第7巻 大震災・原発危機下の国際関係』恒川惠市編/東洋経済新報社/3700円+税

【評者】山内昌之(明治大学特任教授)

 東日本大震災は、日本の国際イメージにも大きな影響を与えた。日本は適切に震災と福島原発事故に対処したのか否か、検証も不可欠である。日本は外国による支援の申し出を相応に処理し、米軍と自衛隊の協力もうまく進んだと考えられている。

 本書は、専門家による共同研究全8巻のうち、日本人があまり知らない在留外国人と各国大使館の動きを含めて、放射能汚染問題に対する外国政府と世論の動きをとりあげた示唆に富む書物である。

 米軍のトモダチ作戦を別格とすれば、各診療科の専門医と最新医療機械を持ち込んだイスラエル・チームの水準が高く、エコノミー症候群に特化したヨルダン・チームの医療も効果を発揮するなど各国の支援はそれぞれの個性を発揮した。中東はもとよりロシア、インドネシアなどの産油国のエネルギー支援もありがたかった。

 トモダチ作戦は、最大時に約1万6000名、大型空母など艦船15隻、航空機140機を投入した大規模人道支援と災害救助活動である。これは、日米両軍の共同作戦実施能力が高い水準にあることを再確認した。

 興味深いのは、日本と東京からいちはやく脱出する外国大使館や外国人も少なくなかったことだ。いちばん早いのは3月13日という早い段階で被災地はおろか首都圏からの避難を自国民に勧告したドイツとフランスの措置である。大使館機能もドイツは18日に大阪に移し、フランスは17日に一部機能を京都に移すという疾風迅雷の動きであった。何かにつけて、どうもこの両国は信用がならない。

 意外なのは、中国も韓国も泰然自若として大使館移動という風を食らう挙には出なかったことだ。しかも韓国は、中国とも違って、政府職員はもとより日本滞在中の会社員や留学生に帰国勧告を出さなかった。

 国際関係から学ぶ大震災の教訓という特異な接近法は、11章の全体に貫かれている。そのうち7章も自ら書いた編者の恒川惠市氏に敬意を表しておきたい。

※週刊ポスト2015年8月14日号

関連記事

トピックス

9月6日から8日の3日間、新潟県に滞在された愛子さま(写真は9月11日、秋篠宮妃紀子さまにお祝いのあいさつをするため、秋篠宮邸のある赤坂御用地に入られる様子・時事通信フォト)
《ますます雅子さまに似て…》愛子さま「あえて眉山を作らずハの字に落ちる眉」「頬の高い位置にピンクのチーク」専門家が単独公務でのメイクを絶賛 気品漂う“大人の横顔”
NEWSポストセブン
川崎市に住む岡崎彩咲陽さん(当時20)の遺体が、元交際相手の白井秀征被告(28)の自宅から見つかってからおよそ4か月
「骨盤とか、遺骨がまだ全部見つかっていないの」岡崎彩咲陽さんの親族が語った “冷めることのない怒り”「(警察は)遺族の質問に一切答えなかった」【川崎ストーカー殺人】
NEWSポストセブン
最新機種に惑わされない方法とは(写真/イメージマート) 
《新型iPhoneが発表》新機能へワクワク感高まるも「型落ち」でも充分?石原壮一郎氏が解説する“最新機種”に惑わされない方法
NEWSポストセブン
シーズンオフをゆったりと過ごすはずの別荘は訴訟騒動となっている(時事通信フォト)
《真美子さんとの屋外プール時間も》大谷翔平のハワイ別荘騒動で…失われ続ける愛妻との「思い出の場所」
NEWSポストセブン
選手会長としてリーグ優勝に導いた中野拓夢(時事通信フォト)
《3歳年上のインスタグラマー妻》阪神・中野拓夢の活躍支えた“姑直伝の芋煮”…日本シリーズに向けて深まる夫婦の絆
NEWSポストセブン
学校側は寮内で何が起こったか説明する様子は無かったという
《前寮長が生徒3人への傷害容疑で書類送検》「今日中に殺すからな」ゴルフの名門・沖学園に激震、被害生徒らがコメント「厳罰を受けてほしい」
パリで行われた記者会見(1996年、時事通信フォト)
《マイケル没後16年》「僕だけしか知らないマイケル・ジャクソン」あのキング・オブ・ポップと過ごした60分間を初告白!
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン
『東京2025世界陸上』でスペシャルアンバサダーを務める織田裕二
《テレビ関係者が熱視線》『世界陸上』再登板で変わる織田裕二、バラエティで見せる“嘘がないリアクション” 『踊る』続編も控え、再注目の存在に 
NEWSポストセブン
会話をしながら歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《ベビーカーショットの初孫に初コメント》小室圭さんは「あなたにふさわしい人」…秋篠宮妃紀子さまが”木香薔薇”に隠した眞子さんへのメッセージ 圭さんは「あなたにふさわしい人」
NEWSポストセブン
試練を迎えた大谷翔平と真美子夫人 (写真/共同通信社)
《大谷翔平、結婚2年目の試練》信頼する代理人が提訴され強いショックを受けた真美子さん 育児に戸惑いチームの夫人会も不参加で孤独感 
女性セブン
海外から違法サプリメントを持ち込んだ疑いにかけられている新浪剛史氏(時事通信フォト)
《新浪剛史氏は潔白を主張》 “違法サプリ”送った「知人女性」の素性「国民的女優も通うマッサージ店を経営」「水素水コラムを40回近く連載」 警察は捜査を継続中
NEWSポストセブン