国内

なぜ「敗戦」と言わずに「終戦」と言うのか その理由を考察

 終戦に至るドラマを描いた映画『日本のいちばん長い日』(松竹、8月8日公開)を見て、あらためて戦争について考えさせられた。私はなぜ「敗戦」と言わず「終戦」と言うのか、ずっと疑問だった。だが、映画を見て少し謎が解けたような気がする。

 日本は戦争に負けた。それは事実である。だが、指導者たちにとっては「どうやって戦争を終わらせるのか」こそが重大問題だったのだ。

 1931年の満州事変(日中戦争)が太平洋戦争に至る15年戦争の始まりである。陸軍の青年将校たちは「それ行け、どんどん」で満州に攻め入った。だが、いったん火がついてしまうと、軍部も政治家たちも自分たちで始末を付けられなくなった。

 結局、どうにもならなくなって、立憲君主制の下では、本来なら内閣の結論を追認する役割にすぎない天皇が「聖断」を下すことで戦争を終結させた。戦争の終わらせ方こそが最大の難問になってしまったのだ。

 この無責任体制は、実はいまも残っている。政治家と官僚は政策を始めるときこそ意気軒昂だが、それが失敗と分かっても止められず、責任もとらない。

 新国立競技場の建設問題が最新の実例だ。安倍首相が決断するまで、担当する文部科学大臣も官僚たちも自ら見直しに動かなかった。失敗の責任はといえば、局長が1人更迭されただけで政治責任はうやむやにされている。

 それからもう1つ。あの戦争は何だったか。いまも「自存防衛のやむを得ない戦争だった」という意見がある。ソ連の南下を満州で阻止するのに加えて、人口急増問題を解決するためにも満州開拓は不可欠だったという説だ。

 しかし、だからといって日本が武力によって他国の領土と主権を侵し、権力を握ろうとした行為を正当化できるか。私にはできない。

 元老・伊藤博文は1906年の時点で「満州は純然たる清国領土」と指摘している。当時でも「日本が満州に軍事侵攻すれば侵略になる」という認識があった証拠ではないか。いま日本が「満州事変は侵略でなかった」などと唱えれば、中国の南シナ海での無法行為も非難できなくなってしまう。

 あの戦争は日本の侵略戦争だった。歴史家は過去の目で過去を見るのかもしれない。だが、私は現在の目で歴史を評価したい。それがいま過去を総括し、より良い未来につながると思うからだ。

■文・長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)

※週刊ポスト2015年8月21・28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平選手と妻・真美子さん
「娘さんの足が元気に動いていたの!」大谷翔平・真美子さんファミリーの姿をスタジアムで目撃したファンが「2人ともとても機嫌が良くて…」と明かす
NEWSポストセブン
メキシコの有名美女インフルエンサーが殺人などの罪で起訴された(Instagramより)
《麻薬カルテルの縄張り争いで婚約者を銃殺か》メキシコの有名美女インフルエンサーを米当局が第一級殺人などの罪で起訴、事件現場で「迷彩服を着て何発も発砲し…」
NEWSポストセブン
「手話のまち 東京国際ろう芸術祭」に出席された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年11月6日、撮影/JMPA)
「耳の先まで美しい」佳子さま、アースカラーのブラウンジャケットにブルーのワンピ 耳に光るのは「金継ぎ」のイヤリング
NEWSポストセブン
逮捕された鈴木沙月容疑者
「もうげんかい、ごめんね弱くて」生後3か月の娘を浴槽内でメッタ刺し…“車椅子インフルエンサー”(28)犯行自白2時間前のインスタ投稿「もうSNSは続けることはないかな」
NEWSポストセブン
「埼玉を日本一の『うどん県』にする会」の会長である永谷晶久さん
《都道府県魅力度ランキングで最下位の悲報!》「埼玉には『うどん』がある」「埼玉のうどんの最大の魅力は、多様性」と“埼玉を日本一の「うどん県」にする会”の会長が断言
NEWSポストセブン
受賞者のうち、一際注目を集めたのがシドニー・スウィーニー(インスタグラムより)
「使用済みのお風呂の水を使った商品を販売」アメリカ人気若手女優(28)、レッドカーペットで“丸出し姿”に賛否集まる 「汚い男子たち」に呼びかける広告で注目
NEWSポストセブン
新関脇・安青錦にインタビュー
【独占告白】ウクライナ出身の新関脇・安青錦、大関昇進に意欲満々「三賞では満足はしていない。全部勝てば優勝できる」 若隆景の取り口を参考にさらなる高みへ
週刊ポスト
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
《出所後の“激痩せ姿”を目撃》芸能活動再開の俳優・新井浩文、仮出所後に明かした“復帰への覚悟”「ウチも性格上、ぱぁーっと言いたいタイプなんですけど」
NEWSポストセブン
”ネグレクト疑い”で逮捕された若い夫婦の裏になにが──
《2児ママと“首タトゥーの男”が育児放棄疑い》「こんなにタトゥーなんてなかった」キャバ嬢時代の元同僚が明かす北島エリカ容疑者の“意外な人物像”「男の影響なのかな…」
NEWSポストセブン
滋賀県草津市で開催された全国障害者スポーツ大会を訪れた秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
《“透け感ワンピース”は6万9300円》佳子さま着用のミントグリーンの1着に注目集まる 識者は「皇室にコーディネーターのような存在がいるかどうかは分かりません」と解説
NEWSポストセブン
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《いきなりテキーラ》サンタコスにバニーガール…イケイケ“港区女子”Nikiが直近で明かしていた恋愛観「成果が伴っている人がいい」【ドジャース・山本由伸と交際継続か】
NEWSポストセブン