ライフ

【筒井康隆特別寄稿2/2】不良老人は振込め詐欺被害に遭わぬ

 世の中、「下流老人」「老後破産」流行りのようだ。テレビ、書籍、雑誌の特集が、「下流老人は死亡率3倍、うつ5倍」などと定年前後の世代の不安を煽り立てる。しかし、である。ようやく定年世代は誰はばかることなく欲するところを実行する時間と権利を得たのである。

 むしろ老人になったいまこそ、不健康で不健全な生活を謳歌するがよかろう。シニア世代よ、これまで仕事や家族のためにできなかった「不良」な生き方を、してみようではないか。作家・筒井康隆氏が特別寄稿した。

 * * *
 そもそもちょっとした悪事などはすべて人間の本質に根ざしている。福沢諭吉翁の言葉だの印欧語の語源であるサンスクリット語などから考察し、小生の頭にはこんな方程式がある。

 善=偽善 偽善=悪
 または
 悪=真 真=善

 と、いったものであるが、これについては九月七日発売の「新潮」十月号に一挙掲載される最新長篇「モナドの領域」をお読みいただきたい。

 但し、いかに悪とは言ってもせいぜいが不良的行為に過ぎないのであるから、人殺しなどは問題外であろう。これはたとえ事故であっても許されないことだ。困るのは例えばいつまでも車を運転していたい老人など、過失致死につながるような行為をやめようとしない老人である。

 こういう人は誰かに運転してもらって波止場など人のいない広い場所まで行き、自分ひとりで思う存分車を走らせればよろしい。たとえ岸壁から落ちて溺死しても、家族は悲しみに泣くだろうが、一方では老人ホームへ入れる金が不要になるから泣いて喜ぶに違いない。

 勿論、老人は早死にした方がいいなどと言っているのではない。生物の使命はできるだけ長生きすることだ。たとえ捕食される運命の小動物だって、生き延びる個体数が多ければそれだけ子孫も増える。

 それにしても最近の老人は善良な人ばかりに思えてならない。不良老人や、特に昔よくいた、長谷川町子の漫画のような意地悪婆さんはどこへ行ってしまったのだろう。不良老人や意地悪婆さんであれば、振込め詐欺などに騙されたりはしない筈である。逆に老人であることを口実にして家へ金を取りに来させ、引っ捕らえればよい。腕力で負けそうだというなら包丁で突き殺してもよいし、警官に頼んで待機してもらえばいいのである。

 老人ならみな知っていることだろう。昔は条例の数は僅かであった。ところが世の中が平和になるにつれて条例の数がどんどん増えはじめた。これは逆ではないのか。われわれ不良老人にとって住みにくい世の中になってきた。

 だからこそ今、老人の反骨精神が必要になってきている。老人よすべからく不良たるべし。これが小生のすべての老人に向けた最終的なメッセージである。

※週刊ポスト2015年8月21・28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン