ビジネス

物流の危機 深刻なドライバーの人手不足、5年後に10万人減

 知られざる業界紙・専門誌の世界を紹介。今回取り上げるのは、物流業界の専門紙です。

『輸送経済』
創刊:1948年
発行:毎週火曜日発行
部数:8万部
読者層:物流業界、産業界物流マネジャー、官公庁ほか
定価:2万5920円/半年、 4万9766円/1年
購入方法:発行元・輸送経済新聞社に直接注文

「今から30分に限り○○円以上お買い上げで送料無料!」。買おうかどうか迷っていたテレビショッピングに、このひと声で電話に飛びついた経験はないだろうか。

「送料無料をうたうと瞬時に電話が殺到しますが、『送料は当社負担』だと、無料より“おトク”じゃないイメージがあって、注文が鈍くなるんだそうです」と、水谷周平編集統括(36才)は、まず私たち消費者の心理を語る。

 当たり前の話だけれど、インターネットで欲しい商品を選び、お手軽にネットショッピングをしても、通販業者から私たちの手元に荷物を運ぶのは、トラックドライバー、つまり人力だ。

 今、物流業界ではドライバーの人手不足が深刻な問題になっていて、特に長距離ドライバーの減少は著しいのだそう。

「1975年封切りの菅原文太さん主演の映画『トラック野郎』の時代は花形の職業で、お給料もよかったんです。が、業者間のダンピング競争のしわ寄せがドライバーにきて、年々、賃金が目減りしています。それなのに仕事の量は増えるばかりで、多くのドライバーは、長時間の運転と重い荷運びで慢性的な腰痛に悩まされている。おまけに“荷主の庭先”の付帯作業はドライバーの負担が大きく、典型的な3K職種なんですよ」と水谷さん。

“荷主の庭先”とは何か。同紙の人気連載企画『ことば教えて!』によると〈運送会社が日々集荷や配達で訪れるのが、荷主の庭先と呼ばれる工場や物流施設の貨物受け渡し場所で、庭先では料金の伴わない長時間の、手待ちや付帯作業が頻発している〉のだそう。

 付帯作業とは仕分けや、ラベル張り、検品、納品場所の整理などのこと。威勢のいい“トラック野郎”のイメージとは大きくかけ離れているではないか。しかもこれらはほぼサービス業務、つまりタダ働きというから泣けてくる。

 業界の内実はともかく、私たちの生活は、物流が正常に動いていることが前提で成り立っている。もしその流れが止まるとどうなるか。

 同紙の名物企画の巻頭インタビューには、心理学者や人類学者など、多彩な著名人が登場して、業界にさまざまな提言をしているが、元宇宙飛行士の向井千秋さんは〈物流は血液のように、人の営みになくてはならない基盤。空気や水といった必要不可欠なものは、重要性に気付きにくい。だが、物流は一日止まれば、経済はまひする〉と、医師らしい指摘をする。

 その“まひ”が今、目の前に迫っているのだそう。

「4年前の大震災直後に、全国から延べ1万台超のトラックが支援物資を輸送し、被災者の生活は徐々に復旧しました。

 しかし、ドライバーはこのままだと5年後、10万人減少すると試算されています。そうなってから同じような災害が起きたら、円滑な物資輸送は難しくなるでしょうね。いや、災害が起こらなくても、5年後には引っ越しも宅配も成り立たなくなるのではないかと、業界全体が頭を抱えています」(水谷さん)

 新たな動きもある。それまで“荷主”の顔色を気にしていた業者だが、3年前から適正運賃に戻すよう働きかけをし始めたのだ。安い運賃で運ぶ代わり、宅配ではなく近くのコンビニで受け取るシステムも作りつつある。前出の向井さんは語る。

〈日本のトラック業界は、排ガス問題で大気汚染のやり玉に挙げられ、改善のための努力を重ねてきて、先進機器を導入し、高い費用もかけている。…もっと外に向けてアピールすべきだ〉
〈…私たち宇宙飛行士は、税金を使って活動している。だから納税者に向かって、「こんなに役に立つんですよ」と報告し、税金を使うことに理解を求める。物流も、業界内にとどまらず、外側の世界へ発信してほしい〉

 ひとくちにトラックといっても、深夜、新幹線の新車両を載せ、細い道を、神業ともいえる運転技術で運ぶドライバーもいるし、高額な美術品を梱包する匠もいる。病院間の移植臓器をはじめ、人命に直接かかわる医療器具を運ぶのも専門のドライバーだ。

 私たちも、そろそろ“送料無料”の先にあるものを、考える時期にきているのかもしれない。

(取材・文/野原広子)

※女性セブン2015年9月10日号

関連記事

トピックス

優勝パレードには真美子さんも参加(時事通信フォト/共同通信社)
《頬を寄せ合い密着ツーショット》大谷翔平と真美子さんの“公開イチャイチャ”に「癒やされるわ~」ときめくファン、スキンシップで「意味がわからない」と驚かせた過去も
NEWSポストセブン
デート動画が話題になったドジャース・山本由伸とモデルの丹波仁希(TikTokより)
《熱愛説のモデル・Nikiは「日本に全然帰ってこない…」》山本由伸が購入していた“31億円の広すぎる豪邸”、「私はニッキー!」インスタでは「海外での水着姿」を度々披露
NEWSポストセブン
生きた状態の男性にガソリンをかけて火をつけ殺害したアンソニー・ボイド(写真/支援者提供)
《生きている男性に火をつけ殺害》“人道的な”窒素吸入マスクで死刑執行も「激しく喘ぐような呼吸が15分続き…」、アメリカでは「現代のリンチ」と批判の声【米アラバマ州】
NEWSポストセブン
“アンチ”岩田さんが語る「大谷選手の最大の魅力」とは(Xより)
《“大谷翔平アンチ”が振り返る今シーズン》「日本人投手には贔屓しろよ!と…」“HR数×1kmマラソン”岩田ゆうたさん、合計2113km走覇で決断した「とんでもない新ルール」
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の学生時代
《被害者夫と容疑者の同級生を取材》「色恋なんてする雰囲気じゃ…」“名古屋・26年前の主婦殺人事件”の既婚者子持ち・安福久美子容疑者の不可解な動機とは
NEWSポストセブン
ソウル五輪・シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング=AS)銅メダリストの小谷実可子
《顔出し解禁の愛娘は人気ドラマ出演女優》59歳の小谷実可子が見せた白水着の筋肉美、「生涯現役」の元メダリストが描く親子の夢
NEWSポストセブン
ドラマ『金田一少年の事件簿』などで活躍した古尾谷雅人さん(享年45)
「なんでアイドルと共演しなきゃいけないんだ」『金田一少年の事件簿』で存在感の俳優・古尾谷雅人さん、役者の長男が明かした亡き父の素顔「酔うと荒れるように…」
NEWSポストセブン
マイキー・マディソン(26)(時事通信フォト)
「スタイリストはクビにならないの?」米女優マイキー・マディソン(26)の“ほぼ裸ドレス”が物議…背景に“ボディ・ポジティブ”な考え方
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
《かつてのクマとはまったく違う…》「アーバン熊」は肉食に進化した“新世代の熊”、「狩りが苦手で主食は木の実や樹木」な熊を変えた「熊撃ち禁止令」とは
NEWSポストセブン
アルジェリア人のダビア・ベンキレッド被告(TikTokより)
「少女の顔を無理やり股に引き寄せて…」「遺体は旅行用トランクで運び出した」12歳少女を殺害したアルジェリア人女性(27)が終身刑、3年間の事件に涙の決着【仏・女性犯罪者で初の判決】
NEWSポストセブン
ガールズメッセ2025」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
佳子さまの「清楚すぎる水玉ワンピース」から見える“紀子さまとの絆”  ロングワンピースもVネックの半袖タイプもドット柄で「よく似合う」の声続々
週刊ポスト
永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン