しかも、総合居酒屋という業態の“賞味期限”も切れている――と中村氏は続ける。
「ワタミの不振を後目に、280円均一の焼き鳥店『鳥貴族』や、宮崎の獲れたて素材を提供する『塚田農場』、大阪伝統の味を売りにする『串カツ田中』など、特色を持たせた専門居酒屋は好調です。
“居食屋”をモットーにしてきたワタミも、自社農場の作物を活かした新メニュー開発を繰り返していますが、和民に行ってまで食べたいと思わせる名物料理に乏しく、価格設定を上下させるなどした挙げ句、客離れはかえって進んでしまいました」
価格政策の迷走ぶりは目に余る。昨年4月に商品価値を向上させるとして和民の1皿当たりの単価を15%引き上げていたが、今年の4月には一転、メニュー数を減らして平均単価を10%下げる値下げを実施。そして、再び9月より商品数を増やしている。
「もはや、小手先のメニュー見直しや価格改訂だけでは浮上できない」(外食アナリスト)との声も出る中、業界内では“和民ブランド”消滅の可能性まで囁かれている。すでに『炭旬』や『銀政』などワタミ名が入らない業態を立ち上げている。
「確かに客離れやブラック批判で和民ブランドは毀損しているので、社名はそのまま残したとしても、外食チェーンは新たなブランドで心機一転勝負するのは手だと思います。ただ、和民に思い入れのある渡辺さんがどこまで了承するかが問題です」(中村氏)
現在、渡辺氏はワタミの全役職を外れ、表向きは経営への関与を否定しているが、現社長はアルバイト上がりで渡辺氏の「懐刀」だった清水邦晃氏。同氏は事あるごとに渡辺オーナーの経営判断を仰いでいるといわれる。
その清水氏は、日経MJ(7月31日)の取材でブランド名を変える可能性について問われ、こんな発言をしている。
〈市場環境の変化に応じて専門業態を増やしていく結果、『和民』や『わたみん家』などの比率は相対的に下がるだろう。ただ、総合居酒屋として創業した以上、『和民』なども一定数は残す〉
ワタミ復活のカギを握るのは、やはり創業オーナーの「鶴の一声」ということか。場合によっては、カリスマ自らが再び経営に大ナタを振るう日が来るかもしれない。