――最近、廃墟や負の遺産のような場所を観光地化するという流れもありますね。
佐藤:2000年以降、日本が反省期に入っているところがあると思います。今の日本にある廃墟ってバブル期に作られたものもすごく多くて、今もう日本全体が新しい建築を作っていこうと浮かれている時代ではないですよね。さらに3.11を経て原発の問題が表面化して、現在の新国立競技場の問題も「もうそういうのはやめようよ」という流れの方がわりと強いですし。特に欧米では多額の税金や投資で生まれた巨大建造物が、結局は廃墟になった姿を写真にとらえて公に曝すという、社会批評的な文脈もあると思います。
あとはテクニカルな理由ですね。廃墟マニアの人たちは、素人が押し寄せてその場所を荒らさないように、名前を明かさない場合も多いんです。でも今はネットでだいぶ情報が伝わっている上に、GPSやグーグルマップを使ってルートを出すことが素人でも可能になりました。あとはデジタルカメラの高性能化で、昔と違って暗い場所でも高感度な写真が撮れるようになったり、そういう複合的な要因があるのかなと思います。ただ、アーバンエクスプロレーション(都市探検)やダークツーリズムというものが今世界的に、地下的に流行している流れもありますね。
――なぜ“地下化”の流れができているんでしょうか?
佐藤:大雑把にいえば、趣向の多様化のようなことだと思います。廃墟も人家や坑道などいろんな廃墟がある中で、マニアになると全部を網羅するのではなく、坑道専門というふうにどんどん細分化していっている。細分化はオタクの文化的成熟過程でよく見られることだと思うんですけど、それが廃墟シーンでも起きているというか。海外の人の場合は、結構体を張っていますね。建設が止まっている巨大なビルの一番高いところにいってGoProで撮って、ネットにポストして自慢するような、ストリートスポーツ的な側面もあったりします。
――GPSで場所が特定できたり、ドローンがあり、地理上で空白や未知なものが無くなりつつある中で現代的な探索の形とは?
佐藤:未開というものが失われてきている中でも、実はすぐ身の回りにたくさん未開の場所があった、という考え方がたぶん世界的に行われている都市探検のひとつの原動力にはなっていると思うんです。最近も、テレビ番組の取材中に東京駅の地下に謎の巨大空間が発見されたニュースがありましたが、建設中に放置されたビルとか、軍艦島のように廃墟としてずっと封鎖されている場所とか、身近でほったらかしになっている場所が舞台になってきていると思います。