ライフ

【著者に訊け】横田増生氏 宅配の実態描く『仁義なき宅配』

【著者に訊け】横田増生氏/『仁義なき宅配 ヤマトvs佐川vs日本郵便vsアマゾン』/小学館/1400円+税

 ネット上で選んだ商品が、指定の日時に正確に届く。最近は自宅で靴を何種類でも試着でき、気に入らなければ全品返品可能。送料も一切かからない〈進化〉した通販も登場し、その便利さ・お手軽さを、私たちは当たり前に享受している。

 でも待て、本当に大丈夫なのかと心配になったのが、『仁義なき宅配』の著者・横田増生氏だ。先にユニクロやアマゾンの実像を暴き、〈“企業にもっとも嫌われる”ジャーナリスト〉との異名も取る彼は、本書でも宅配業界に潜入取材を敢行。日本が世界に誇るその精度を何が支えてきたのかを、小倉昌男、佐川清といった歴代経営者の横顔や大手3社の歩みと併せて検証する。

 そのカラクリは消費者が普段知ることのないブラックボックスとも言えるが、いかに科学技術が進もうと、モノは、人が運ばない限り、届かないのも道理だ。結局、「どこでもドア」はどこにもないのだから。

「僕は正攻法で取材を断られたから、仕方なく現場で働いただけなんです。おそらくユニクロとの訴訟以来、相当警戒されているらしく、もし僕がヤマトや佐川の広報にいても確かに断りたくはなる(笑い)」

 ユニクロ側が版元に2億2千万円の損害賠償を求め(2014年末、原告敗訴が確定)、話題となった『ユニクロ帝国の光と影』(2011年)でも、あくまで氏の興味は右肩の上がらない日本で異次元の成長を遂げる同社のビジネスモデルにあった。

 まして物流はかつてドラッカーが「暗黒大陸」と評したほど技術革新の恩恵を受けにくく、元物流業界紙記者としてはその進化を極力、〈宅配荷物の近くに身を置いて〉確かめたかったと書く。

 ヤマト運輸が1970年代に宅急便事業を開始して以来、メール便を含む宅配市場は年間90億個強に成長。特にここ10年の伸びを牽引したのが11兆円規模に上るネット通販だ。現在では企業発個人向けの荷物が全体の4割を占め、送料無料を掲げる通販会社の〈運賃叩き〉が常態化。中でも業界最大手アマゾンとの取引はシェア拡大の一方で利益率を低下させ、〈豊作貧乏〉に喘ぐ物流各社の対応は分かれた。

 まずは2013年春にアマゾンとの取引を打ち切り、〈運賃適正化〉に舵を切ったのが佐川急便だ。ヤマト運輸も同11月、クール宅急便の温度管理を巡る不祥事を機に適正化に動き、〈運賃上昇→利益率の上昇→設備投資の増額→労働環境の改善〉の好循環に業界全体が入るかに見えた。

「ところがそこに割り込んだのが3番手の日本郵便で、個数だけなら〈独り勝ち〉に近い。例えばヤマトの前期決算では運賃平均が570円台から590円台に今世紀初めて上昇したものの、今期の予想では再び単価が20円下がる。要はヤマト対佐川の叩き合いがヤマト対郵便に移ったわけです。

 しかも人件費比率が売上の5割を越える〈労働集約型産業〉では常に皺寄せは現場に向かい、仮に利益率5%のヤマトが比率を55%に上げれば利益は吹き飛ぶ。唯一60%を越える郵便でも今年11月の上場以降はどうなるかわかりませんから」

関連記事

トピックス

11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
左が金井正彰・外務省アジア大洋州局長、右が劉勁松・中国外務省アジア局長。劉氏はポケットに両手を入れたまま(AFP=時事)
《“両手ポケット”に日本が頭を下げる?》中国外務省局長の“優位強調”写真が拡散 プロパガンダの狙いと日本が“情報戦”でダメージを受けないために現場でやるべきだったことを臨床心理士が分析
NEWSポストセブン
ビエンチャン中高一貫校を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月19日、撮影/横田紋子)
《生徒たちと笑顔で交流》愛子さま、エレガントなセパレート風のワンピでラオスの学校を訪問 レース生地と爽やかなライトブルーで親しみやすい印象に
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信フォト)
オフ突入の大谷翔平、怒涛の分刻みCM撮影ラッシュ 持ち時間は1社4時間から2時間に短縮でもスポンサーを感激させる強いこだわり 年末年始は“極秘帰国計画”か 
女性セブン
10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン