ソウル市の西のはずれにある九老地区には、「新興チャイナタウン」がある。そのエリアはソウル名物の高層マンションなど皆無で、アパートや平屋建ての小さな住宅がひしめき合い、一見して貧しさが感じられる。韓国人がしばしばいう「生活の良くない街」(低所得者などが集住する街)の典型である。
その一角にある、中国人(主に朝鮮族)向けの職業斡旋業者を訪ねた。所長の韓国人男性に、韓国で暮らす中国人への「差別待遇」について聞くと、「そういうことを言う連中の考え方が間違っている。中国は働かなくても国家が食べさせてくれるが、ここは資本主義の国だ。中国人は働かざる者、喰うべからずということがわからないんだ」と、声を荒らげた。
この斡旋業者が中国人に紹介している職種を見ると、弁当の梱包作業、電気工事、サウナ職員などが主で、休みはいずれも月に2回のみ。
取材中、中国朝鮮族の男性が運転代行の仕事を探しにやって来た。斡旋業者が「韓国人と仕事することになるけど大丈夫か」と尋ねると、男性は「それは仕事だから仕方がない」と答えた。韓国人と仕事をすると「ぞんざいに扱われる」のだという。
中国朝鮮族に対して向けられる蔑視について、ある朝鮮族の男性は「韓国人は私たちを無視し、厄介者のように接する。だから朝鮮族だけで寄り集まって暮らすしかない」と嘆息した。
文/藤原修平(在韓ジャーナリスト)
※SAPIO2015年11月号