芸能

草野仁氏 ジャーナリズム精神伝授してくれた上司の殺し文句

1976年、モントリオール五輪取材時の草野氏(右)と羽佐間氏

 どんな大物だろうと天才だろうと、人生の中では思い悩み苦しむことがあった。そんな時に光を照らし道を示してくれた恩師の思い出は、今も色鮮やかに心に刻まれている。アナウンサーの草野仁氏(71)が、そんな恩師へ感謝の言葉を語る。

 * * *
 NHKを受けた当時の私は報道記者志望でしたが、なぜか採用はアナウンサー。それでも報道への憧れが強く、他のアナウンサーに比べて自ら取材する機会が多いスポーツアナを目指すことにしたのです。

 その頃のお手本であり、私の恩師がプロ野球やオリンピックの実況で活躍された先輩アナの羽佐間正雄さんです。

 羽佐間さんは膨大な時間をかけて取材し集めたデータを分析して、それを実況に活かす。そのジャーナリスティックな姿勢は単なる表現者としてのアナウンサーの枠を超えるもので、私の理想像でした。

 入社3年目のとき、私は福岡放送局に異動になったのですが、なんと羽佐間さんも管理職のチーフアナとして赴任し、直属の上司になりました。

「お前を育てるために俺は福岡にきた」と、おっしゃる。嬉しいと同時に「しっかりしなきゃ」と身が引き締まる“殺し文句”でした。

 そのころ、「黒い霧事件」後に弱体化した西鉄ライオンズを、彼は実況で応援したいと思っていた。スキャンダルで離れた地元ファンの心を取り戻すために選手や球団関係者、解説者にベッタリ張り付いて“密着取材”していた。だから芯を喰った、解説者と対等に渡り合えるような実況ができたのでしょう。

 羽佐間さんの教えはNHKを退社した後にも生きました。私がNHKを退社した後、1993年から情報番組『ザ・ワイド』(日本テレビ系)のキャスターを務め始めた頃に、松本サリン事件が起きた。

 各局が薬学の専門家をコメンテーターとして呼んでいることに私は「核心を突いていない」と感じ、こちらはアメリカから化学兵器の専門家を番組に招いた。彼の綿密な分析で、『ザ・ワイド』が他を圧倒する視聴率を獲得できました。

 アナウンサーは職人気質だから後継者を育てる方は少ないですが、羽佐間さんは部下を育てることを大切にされた。薫陶を受けた私や、かつての教え子たちで羽佐間さんを囲んで、今でもたまに集まるんですよ。

●くさの・ひとし/旧・満州国新京(現・中国吉林省長春)生まれ。1967年アナウンサーとしてNHKに入社後、1985年退職。現在はフリーとして活躍している。

※週刊ポスト2015年11月27日・12月4日号

トピックス

ロシアのプーチン大統領と面会した安倍昭恵夫人(時事通信/EPA=時事)
プーチンと面会で話題の安倍昭恵夫人 トー横キッズから「小池百合子」に間違われていた!
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
「日本人ポップスターとの子供がいる」との報道もあったイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
イーロン・マスク氏に「日本人ポップスターとの子供がいる」報道も相手が公表しない理由 “口止め料”として「巨額の養育費が支払われている」との情報も
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《会社の暗部が暴露される…》フジテレビが恐れる処分された編成幹部B氏の“暴走” 「法廷での言葉」にも懸念
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
長嶋茂雄さんとの初対戦の思い出なども振り返る
江夏豊氏が語る長嶋茂雄さんへの思い 1975年オフに持ち上がった巨人へのトレード話に「“たられば”はないが、ミスターと同じチームで野球をやってみたかった」
週刊ポスト
元タクシー運転手の田中敏志容疑者が性的暴行などで逮捕された(右の写真はイメージです)
《泥酔女性客に睡眠薬飲ませ性的暴行か》警視庁逮捕の元タクシー運転手のドラレコに残っていた“明らかに不審な映像”、手口は「『気分が悪そうだね』と水と錠剤を飲ませた」
NEWSポストセブン
金田氏と長嶋氏
《追悼・長嶋茂雄さん》400勝投手・カネやんが明かしていた秘話「一緒に雀卓を囲んだが、あいつはルールを知らなかったんじゃないか…」「初対決は4連続三振じゃなくて5連続三振」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
NEWSポストセブン