●その2──突然お粗末になるセット
豪商・加野屋のセットの完成度が高くて素晴らしい。NHK大阪放送局で一番大きいスタジオを使い、一つのセットとしては通常の朝ドラの4倍とか。
素晴らしいのは店舗や居間だけではない。石灯籠、飛石を配したお庭にお稲荷さんのお宮が。時刻によって変わる日差し。思わず探検してみたくなる魅力的な家屋空間だ。そうした手の込んだセットが、ドラマを一層引き立て奥行き感を与えている。
それに対して、筑豊の「加野炭坑」は? 背後に映る鉱山らしきものが、発泡スチロールか何かのハリボテにしか見えない哀しさ。加野屋の空間が素晴らしければ素晴らしいほど、炭坑が狭くて即製のお粗末な空間に見えてきてしまう。その炭坑が、「あさが商売の心得を掴む体験する」重要な場になり頻繁に映像に映るあたりに、チグハグ感が。
●その3──現実の厳しさをどう描く?
今後の注目点の一つが、優しい夫・新次郎が女中の妾をとるかどうか。史実としては妾が生んだ男児が家を継いだが、そのあたりの描写をどうする?
妙に配慮して「妾」問題を避けて欲しくはない、という声も上っている。というのも、主人公のモデル・広岡浅子は妾の子だったが、これまでドラマの中でそのことは一切触れられていなかったから。
ヒロインの夫が妾をつくることを、朝ドラの視聴者が受け入れるかどうか、と心配する声もある。が、視聴者はそこまでヤワではない。「歴史を描く」ということは、そうした葛藤を描くことだから。あさがどんな風に葛藤に決着をつけていくのか。それがドラマツルギー、見所になるのでは?
ドロドロとした愛憎劇にする必要はない。いつの時代も、人はすべて自分の思い通りには生きられないのだから。あさの苦しみをきちんと描くことで、さらに物語は深くなり、人気も高まるはず。
──と、注文が多くて「要求度が高すぎる」と怒られるかもしれない。が、『あさが来た』を毎朝、味わいながら楽しんでいるからこそ、一層高い要求をしたくなるというもの。好きな相手には完璧を求めたくなる。だって、まだ開始からたった2ヶ月余り。NHK朝ドラは半年続く。残された時間はたっぷりある。愛のエールを送るには十分すぎるほどに。