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「女性の再婚禁止300日は違憲」の判決 勝ち取るまでの軌跡

「長い闘いでした…」。岡山県で法律事務所を開業する作花知志(さっかともし)弁護士の言葉は、感慨に満ちていた。12月16日、司法の歴史に残る1つの判決が下った。「女性は離婚後6か月間再婚できない」とした民法の規定について、最高裁は「100日を超えて再婚を禁じるのは憲法違反」との判断を示した。

 明治31年に制定されて以来117年間変わることのなかった“悪法”に、違憲判決をもたらしたもの。それは、1人の女性の悲痛な叫びと、彼女に寄り添った弁護士の不屈の意志だった。

 今回の裁判で原告となったA子さん(30代、岡山県在住)は2006年2月に大阪府在住の男性と結婚した。しかし、幸せな新婚生活を送るはずのA子さんを待っていたのは、前夫からの壮絶なDVだった。結婚直後から暴力が始まり、わずか数か月でA子さんは岡山の実家に逃げ帰った。

 前夫は詫びを入れ、《二度と暴力をふるいません》と一筆書いた。信用したA子さんは大阪に戻るが、直後にまたDVが始まった。前夫には裁判所から接近禁止命令が出され、A子さんは離婚の意思を告げた。だが、前夫はかたくなに拒否。裁判での調停に発展した。この離婚裁判を担当したのが、冒頭の作花弁護士だった。

「家裁での裁判に前夫は一度も出廷せず、A子さんの離婚が認められました。しかし、前夫は控訴してきたのです。嫌がらせに等しいものでした」(作花弁護士)

 2008年3月、A子さんは高裁で勝訴。2年間の裁判を経て、ようやく離婚が成立した。

 その間に現夫と出会った。離婚成立時には、お腹の中に彼の赤ちゃんがいた。すぐに婚姻届を出そうとしたA子さんだったが、ここで民法733条「6か月の再婚禁止期間」が立ちふさがった。

「“やっと彼と結婚できると思ったのに…”と彼女は深く悲しみました。半年間も結婚を待たせることで、男性が自分から離れていくのではないかという不安もあったようです」(作花弁護士)

 法律は、傷心のA子さんに追い打ちをかけた。

 民法772条では、「離婚後300日以内に生まれた子供は前夫の子供と推定する」と定めている。A子さんは離婚成立後221日目に長女を出産し、現夫の子として出生届を提出したが、この「300日問題」により受理されなかった。

 長女は一時、無戸籍の状態になった。

「診断の結果、離婚後の妊娠であることは明白。なぜ前夫の子供になるのか」

 納得のいかないA子さんは2009年1月、民法772条の違憲性を問う裁判を起こした。

「最高裁まで争いましたが、結局、敗訴しました。裁判所は憲法判断をしてくれませんでした」(作花弁護士)

 A子さんは絶望した。なぜ離婚もできず、子供が無戸籍になり、再婚もできないのか──。

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