【著者に訊け】筒井康隆さん/『モナドの領域』/新潮社/1512円
【あらすじ】
河川敷で右の片腕が見つかるという「バラバラ事件」が起きた。商店街にあるパン屋「アート・ベーカリー」では、アルバイトの美大生・栗本健人が人間の片腕の形をしたパンを作る。それは河川敷の片腕とそっくりだった。そしてパン屋の常連だった美大の教授・結野楯夫が突如、不審な行動を取り始め、「GOD」が現れる──。
河川敷で女の片腕が発見され、美貌の警部が捜査を始める。駅前にあるベーカリーでは、アルバイトの美大生が作った片腕そっくりのバゲットが大評判になる。続いて、バゲットが人気を呼ぶきっかけになった新聞のコラムを書いた大学教授が、奇妙な行動を取るようになる。
「モナドの領域」が雑誌『新潮』に掲載されるや雑誌は売り切れ、文芸誌としては珍しく増刷がかかったという、話題性のある小説だ。はじまりは殺人をめぐるミステリーのように見せかけて、物語はとんでもない方向に進んでいく。登場人物の体を借りて「GOD」が人前に姿を現し、この世の秘密を解き明かしていくのである。
「普通のミステリーなんて書きたくないし、安易な解決、謎解きにもしたくなかった。最初にあったのは片腕のパンのアイディアです。ぼくはバゲットが好きだから、バゲットで片腕を作ったら面白いだろうなと思いついて、でもそれだけでは小説にならないからずっとあたためておいたんです」
長いあいだ考え続けてきた、世界のなりたち、多くの人が信じる神という存在と結びついたとき、この小説が生まれた。
「子供のころからカソリック聖母園なんて幼稚園に入れられて、イエス様の話を叩き込まれ、神様のことはずっと念頭にありました。結構、悪いこともしていて、だからこそ神様のことが気になったのかもしれません。大学も同志社で、こちらはプロテスタントですが宗教学が必修科目でした。その後は哲学のほうに行き、ハイデガーを読んだり、アリストテレスも少し、フッサールをかじったりなんかしてましたね」