タイトルの「モナド」というのは、ドイツの哲学者ライプニッツが提唱した世界を構成する単位の概念で、このモナド間の調和は、神の意志によりあらかじめ定められている(予定調和)とするものだ。量子力学や、「対称性の破れ」などといった物理学の用語も飛び出してくる。

「SFのほうじゃ、並行宇宙というのはひとつのジャンルですから。量子力学なんか、読んでもいないのにそれを言い訳みたいにして、こぞって多元宇宙SFを書いてきたんです。ぼくの場合、じゃあ実際にはどうなんだ、ってことで量子力学にも関心を持ってきました」

 そう書くと難しそうだが、ややこしい話をするときはかえってくだけた口調になる「GOD」が、『カラマーゾフの兄弟』を思わせる裁判所の大法廷の場面や、テレビの特番で語ることばを追ううちに、わからないなりになんとなく腑に落ちてくるのが不思議だ。ちなみに「GOD」を書くとき筒井さんのイメージとしてあったのは、グルーチョ・マルクスだそう。

 この小説を書いているのが『時をかける少女』の作者でもあることが書かれていたり、登場人物みずから、これが小説の中の世界であることを明かしたりと、あちこちにちりばめられたメタフィクションの手法は、読者をこの小説のさらなる深みへと連れていく。長年かけて、蓄積された知識、考察、技術がすべて注ぎ込まれている印象を受ける。

「GOD」が現れたのは世界の綻びを直すためだったのだが、小説の中に描かれている世界と「GOD」の関係は、小説と作家のそれに似ているようでもある。だが、「それは違う」と筒井さんは言う。

「それだと作家が造物主ということになってしまいます。この小説の読み方はこうだぞ、っていうのはおそらく何十通りも出てくるでしょうけど、作者というのは読者にとって、その中の1人にすぎないです」

(取材・文/佐久間文子)

※女性セブン2016年2月4日号

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
3大会連続の五輪出場
【闘病を乗り越えてパリ五輪出場決定】池江璃花子、強くなるために決断した“母の支え”との別れ
女性セブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン