タイトルの「モナド」というのは、ドイツの哲学者ライプニッツが提唱した世界を構成する単位の概念で、このモナド間の調和は、神の意志によりあらかじめ定められている(予定調和)とするものだ。量子力学や、「対称性の破れ」などといった物理学の用語も飛び出してくる。
「SFのほうじゃ、並行宇宙というのはひとつのジャンルですから。量子力学なんか、読んでもいないのにそれを言い訳みたいにして、こぞって多元宇宙SFを書いてきたんです。ぼくの場合、じゃあ実際にはどうなんだ、ってことで量子力学にも関心を持ってきました」
そう書くと難しそうだが、ややこしい話をするときはかえってくだけた口調になる「GOD」が、『カラマーゾフの兄弟』を思わせる裁判所の大法廷の場面や、テレビの特番で語ることばを追ううちに、わからないなりになんとなく腑に落ちてくるのが不思議だ。ちなみに「GOD」を書くとき筒井さんのイメージとしてあったのは、グルーチョ・マルクスだそう。
この小説を書いているのが『時をかける少女』の作者でもあることが書かれていたり、登場人物みずから、これが小説の中の世界であることを明かしたりと、あちこちにちりばめられたメタフィクションの手法は、読者をこの小説のさらなる深みへと連れていく。長年かけて、蓄積された知識、考察、技術がすべて注ぎ込まれている印象を受ける。
「GOD」が現れたのは世界の綻びを直すためだったのだが、小説の中に描かれている世界と「GOD」の関係は、小説と作家のそれに似ているようでもある。だが、「それは違う」と筒井さんは言う。
「それだと作家が造物主ということになってしまいます。この小説の読み方はこうだぞ、っていうのはおそらく何十通りも出てくるでしょうけど、作者というのは読者にとって、その中の1人にすぎないです」
(取材・文/佐久間文子)
※女性セブン2016年2月4日号