国際情報

「ISの行動はテロではない。ポストモダン型戦争に」と専門家

ISのテロは中東から欧州、北米まで拡大している Abaca/AFLO

 欧州・北米にまで拡大する「イスラム国」(IS)の脅威。中東・イスラム世界の研究者として知られる山内昌之・明治大学特任教授は、この新たな動きに対して米欧の価値観を押しつけるだけでは解決の道は見えてこないと指摘し、中東情勢を解く場合に基礎となる条件と特徴をあげる。

 * * *
 中東の中心的な懸案はこれまで、パレスチナ問題をめぐるイスラエルとアラブとの紛争であり、イランの核開発問題であったが、これらはISの台頭によって後景に退いた感もある。というのも、シリアとイラクにまたがる領域を越えて、ISの戦域が中東から欧州、ひいては北米までテロという形で拡大しているからだ。

 ISは、米欧やロシアから攻撃を受けるシリアだけを戦域や戦線と考えるのではなく、米欧やアフリカやロシアにまで自ら積極的に戦域を拡大しようとしているかにも見える。これは、もはやテロや暴力の範囲を越えてポストモダン型戦争の領域に入ったといえるだろう。

 第二に、モダンの政治原理が生んだ多数の国家が中東を中心に崩壊あるいは破綻している現実がある。国家の崩壊は、市民生活と社会秩序の保全、各種のグローバル・システムにとって最悪の政治現象である。国民国家の枠はクリミアからウクライナ、アフガニスタンやリビアからシリア、イエメンに至るまで崩壊しかけており、イラクも破綻国家に近づいている。アフリカでも多くの国が溶解したか、破綻しつつある。
 
 欧米やロシアの戦争や軍事干渉に加えて、それに対抗する内戦やテロの蔓延が国家の解体や破綻を促進したのだ。これは、ロシアと米欧の対峙で進行中の第二次冷戦と、中東から生じているポストモダン型戦争を結合させてグローバルな複合危機に発展する危険性がある。

 しかも、アラブ各国の弱体化によって、アラブ圏やアラビア半島に対する域外からの干渉と影響力が強まっている。非アラブのイランとトルコは、これらの地域と民族を支配した帝国の記憶を政策の基礎にしており、アケメネス朝帝国(古代ペルシア帝国の王朝)に遡る歴史をもちシーア派の総本山たるイランと、スンナ派のカリフを戴いたオスマン帝国の継承者たるトルコとの争いも激しい。

 かれらの膨張主義的野望は、ロシアと手を組むイランの方が、ロシア機撃墜でプーチンとの敵対に追い込まれたエルドアンのトルコよりも成功している。シーア派国際革命の拡大が複合危機を促進する可能性はこれからの懸念材料である。

関連キーワード

関連記事

トピックス

初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン