ライフ

上杉鷹山が備えていた指導者の資質「しんがりマインド」とは

 哲学者の鷲田清一氏は、今の日本人に欠けている「しんがりマインド」の重要性を強く訴える。「しんがり」とは「殿」と書き、敗戦の際、敵の攻撃を最後尾で食い止める役割のことである。

 * * *
 昨今よく「予測不能な未来」などと言われるが、違うと思う。今後数十年間確実に人口減少が続き、日本は縮小社会を迎える。原発は危険すぎるが再生可能エネルギーへの移行は容易でない。年金も介護も今のままを維持できない。一般市民の目にもほぼ問題は確定しているが、「どう対処したらいいか」が見えないのだ。

 こういうとき、みずからも社会の一翼を担い、みんなで力を合わせなければと思って当然なのに、現実はそうならずに、次々に手を打ち現状を打破してくれそうな「強いリーダー」を望んでいる。これは日本人の「おまかせ」意識から出る発想である。

 この「おまかせ」意識は今に始まった話ではない。日本人は明治以降の近代化の過程で徐々に「生き延びるための仕組み」を手放してきた。たとえば、病気の治療、食材の確保、次世代の育成などのことだ。そうした「生き延びる仕組み」を近代化させるため、国家は西洋以上に力を入れて専門家を養成した。

 医師、看護師、教員、行政職員、弁護士といったプロに任せたほうがクオリティは一気に上がる。それによって国民の学力は高まったし、長寿化は達成され、都市の安全性も飛躍的に高まった。

 しかし、それと引き換えに「おまかせ」の精神構造が徹底されていった。気がついたときには、市民は成熟するどころか、行政サービスの「顧客」になってしまった。それが「強いリーダー」待望論と通底する。つまり、「まかせているんだから、ちゃんとやってくれ」ということだ。

 高度成長期には従来型のリーダーシップでも全体が押し上げられていたから、会社は事業が失敗しても他の部門で補うことができ、冒険することができた。しかし、いまの縮小社会では失策は会社の存亡に関わる。そういう時代には、「俺について来い」式のリーダーではなく、全体を見渡すことのできる「しんがりマインド」を備えた人が必要になってくる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
役者でタレントの山口良一さんが今も築地本願寺を訪れる理由とは…?(事務所提供)
《笑福亭笑瓶さんの月命日に今も必ず墓参り》俳優・山口良一(70)が2年半、毎月22日に築地本願寺で眠る亡き親友に手を合わせる理由
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン