◆日韓合意が壊してしまったもの
私たちが勝機を見出したのは慰安婦像設置推進派のリーダーが団体のサイトにハングルで書いた以下の檄文だった。
〈反省しない日本人を、軍国主義の復活を夢見る安倍晋三の日本人たちを撃破し、惨めで悲しい朝鮮半島の歴史に終止符を打つ〉
これは「女性の人権問題」という枠組みを越え、反日の「ネイチャー(本性)」が露呈している。豪州の法律が禁じる他民族への誹謗中傷に該当した。私たちはそこを突いて攻勢に転じ、「コミュニティの融和」こそ重要であると議員や住民に粘り強く訴え、最終的に慰安婦像設置を阻止した。
この事例に関わり心底学んだのは、反日団体が「円満な解決」を望んでおらず、「事実関係の検証」に全く興味がないことだ。朝鮮半島の屈辱の歴史によって蓄積した民族的欝憤を一掃するのが彼らの目的である。慰安婦20万人の根拠を問われ、「お婆さんに聞いた」と答える人々に、「お詫びと償いで解決しよう」と考えるのはナイーブすぎる。
今回の日韓合意は日本の誇りを守るため海外で奮闘した人々の努力を水泡に帰し、将来世代に禍根を残す。今後、各地で慰安婦像の設置を求める動きが出る可能性もある。日本政府は今からでも慰安婦問題で「何を認め、何を認めないのか」を明確にし、「絶対防衛ライン」を死守すべきだ。国民は中韓との「情報戦」を自覚し、この問題が世界でどう報じられるか知ってほしい。
ストラスフィールドでは1万人の中韓系住民に対し、日本人は70人あまりと圧倒的に少数だった。この状況で日本の名誉のため私たちと共闘してくれた現地の豪州人が今回の日韓合意を受け、ふと漏らした言葉を最後に紹介する。
「日本と日本人のため時間を割いて一生懸命頑張ったが、日本政府が真実でないことをあっさりと認めて謝罪した。あとは日本政府に責任を取ってもらうしかない」
●やまおか・てっしゅう/1965年東京都生まれ。2014年、オーストラリア・ストラスフィールド市にて子供を持つ母親ら現地在住の日系人を中心にAJCN(Australia-Japan Community Network)を結成。2015年夏、同市での「慰安婦像設置」阻止に成功した。
※SAPIO2016年3月号