国際情報

中国で「死体売却」のために請け負った殺人の報酬は

 中国ではいまだに日本の常識ではとても考えられない事件が頻発している。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。

 * * *
 不慮の事故などによって若くして死んだ子供のために、死後に婚姻を行う風習がある。それは「陰婚」あるいは「冥婚」などと呼ばれている。こんな儀式が現代の中国にも残っているといえば読者は驚くだろうか。

 だが、その奇妙な習慣は都市と農村の隔てなく、いまだ厳然と残っている。

 そのことをあらためて思い出させる事件が起きたのは、2016年1月27日のことだ。同日付けの『法制日報』が〈山西省で殺した女性の死体を売る事件が発覚 容疑者の男は殺した女性の死体を「陰婚」のために提供〉というタイトルで報じている。

 事件の発覚は、2015年12月4日。きっかけは山西省晋中市左権県の一人の農民から現地の警察署に、「隣の家から異臭がする。もう数日間も続いている」と通報が入ったことだった。駆けつけた警官がレンタル倉庫であるその部屋に入ると、床下からは腐敗が進んだ若い女性の死体が見つかった。

 死体発見をきっかけに倉庫の借主を調べてゆくと、そこで明らかになったのが犯人がその死体を販売目的で隠していたこと、また死体は墓から盗まれたものではなく殺されたものであることが分かったという。

 捜査チームは呂梁、陽泉、太原、忻州、朔州、長治、大同、内モンゴルなどにまたがる追跡を行い、ついに犯人を逮捕して「陰婚」目的の死体販売及び殺人事件に幕を下ろしたのだった。

 中国人の多くが陰婚を必要と考えるのは、結婚もせず若くして死んだ者の霊が、子孫に悪さをすると信じられているからだ。人々が最も恐れるのは、呪われて子孫が残せなくなること。だから、死後であるとはいえ婚姻の儀式を行うことで、霊の無念が慰められると考えられているのだ。

 儀式に必要なのは、事故などで死んだ子と釣り合う異性の死体だ。自分たちの周囲でタイミングよく見つかるケースは少なく、たいていはヤミの業者に委託することになる。これが中国社会において墓荒らしが無くならない理由であり、またヤミで死体を売買する業者が跳梁跋扈し続けている理由なのだ。

 もっともこうした業者は墓を掘り返して盗むことで死体を調達するのであるが、この事件の特異な点は、犯人が死体を売るために殺人を行っている点だ。つまり死体をつくるために人を殺したのである。

 身勝手で冷酷な犯罪である。

 それにしてもこの犯人、いったい幾らの報酬で一人の女性を手にかけたのか。その金額がわずか2万2000元(約37万7300円)と聞かされ、複雑な気持ちにならない者はいないに違いない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン