国内

「AI碁」歴史的勝利の衝撃 レジェンド棋士5人はこう見た

李世ドル九段が1勝をあげた第4局の局面

 囲碁でコンピュータが勝つのは、10年以上先のこと――。これが囲碁界の主な認識だった。従来のコンピュータはトッププロにハンディキャップをつけないと対等に戦えない実力で、アマ強豪といった棋力だった。

 囲碁は将棋やチェスに比べて盤が広いので、手順も長い。変化も、チェスが10の120乗、将棋が10の220乗に対し、囲碁は10の360乗。将棋より140コも多くゼロがつく桁数も変化があるということだ。また、駒の動きが決まっているチェスや将棋に比べ、囲碁は石の価値が状況や場面ごとに変化していき、コンピュータに認識させにくい。

 そんな背景があり、チェスや将棋のトッププロがコンピュータに負けても、囲碁はまだまだ、と思われていたのだ。

 ところが……。

 2016年3月9日~15日。世界チャンピオンを何度も獲得した韓国の棋士・李世ドル(イセドル)九段(33)と、米グーグルグループ・ディープマインド社製AI(人工知能)「AlphaGo(アルファ碁)」の五番勝負が行われ、なんと、AIが4勝1敗で勝ち越したのだ。

 この衝撃的な状況を、囲碁界はどうとらえているのか。碁界を代表する“レジェンド棋士”5人に話を聞いた。

【日本棋院の元副理事長 小林光一名誉棋聖・名誉名人・名誉碁聖(63)】

「こんなに速く、強いソフトが誕生するとは驚きです。ここ10~20年はたいして進歩していませんでした。僕が生きているうちは無理だろうと予想していたのですが……。

 碁は変化が無限大。一局一局違う未知の世界。一手ごとに状況や形勢がかわるほど、価値判断も難しい。対局していてもわからないことだらけ。なので、碁界ではAIが碁に最適というのは昔から言われていました。

 コンピュータとの対戦は、相手がいるようでいない。気合いが入りにくい状況です。とくに李世ドル九段は、実戦派で、相手との駆け引きに長けている天才。世界のトップ棋士の中で、李世ドル九段が一番、コンピュータが苦手なのでは。もっと学究肌タイプの棋士ならいい勝負をしたのではないかと思います。

 各マスコミが大々的に報じて、社会的にも話題になった。注目を浴びることは碁界にとってマイナスなことはない。

 グーグル社が大金を使い、AIで囲碁の研究するほど、囲碁がすごいものだと多くの人に理解してもらえ、興味を持ってもらえたことでしょう」

【日本棋院理事 元・女流本因坊の小川誠子六段】

「アルファ碁の強さに驚きました。中盤から後半がとくにしっかりしています。コンピュータなのに、感情が入っている気がしたくらいで、李九段とは人間同士の碁のように楽しみました。

 アルファ碁作者のインタビューを読んだのですが、李世ドルさんと打たせたいという熱い思いがあったというのも、感銘を受けました。

 1局目を打ってみて、李世ドルさんはアルファ碁をそんなに強いと思わなかったかもしれませんが、アルファ碁は1局ごとに強くなっていくようでした。反対に、どんどん李世ドルさんは疲れていっている感じ。心も折れたのではないでしょうか。

 そんな中で4局目を李世ドルさんが勝って。なんかウルウルきちゃいました。シリーズが終わり、「今回、負けたのは李世ドルの負けであって、人類の負けではない」と、態度も立派でした。

 あの環境の中で最後まで打ったことは、勝ち負けに関係ないくらい感動しました。これから何かが変わる気がします。時代が変わりそうな予感がしました」

【元・名人の依田紀基九段(50)】

「始まる前は、李世ドル九段が全勝すると予想していました。

 昨年秋に打たれたアルファ碁とヨーロッパチャンピオンとの碁を見て、まだまだだと思っていたのだが、李九段との対局中にもどんどん強くなっている印象で、3局目は完璧な打ち回しでした。アルファ碁の強さは疑いようがないレベルです。

 ただ、アルファ碁は李九段を研究できたでしょうが、李九段はアルファ碁の情報が少なすぎて研究ができなかった。なので、こんなに強いとは予想できなかった。不利な面も多分にあったと思います。

 アルファ碁の出現が、棋道の発展に大いに寄与してくれることでしょう」

関連キーワード

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン