やがてずっと忘れられない思いを叶える日がやってきた。2011年8月のとある日、長男の家を訪れた時のことだった。長男の妻・貴子さん(44才)が、「お母さん、そがなこというなら早よ行がんね(そんなこというなら早く行きなさいよ)」とシヅ子さんの背中を押したのだ。

「お嫁さんがね、“もう自分のしたかことしたら”って言ってくれた。私はプライドとかそげんないもんね。子供育てよった時も、もう人が見とったって、自分の格好はどうでもいいっていう感じでやっていたし、その時その時、いちばん大事なことを優先させてきとったから。ただ、洋裁をちゃんと教えたいっていう思いが私の原動力だった。子供2人も、お嫁さんも、そんな私の気持ちをわかってくれていたと思って、うれしかったですねぇ」(シヅ子さん)

 シヅ子さんから高校再入学の話を切り出されたとき、清治さんはどう思ったのかたずねるとこう答えた。

「純粋に感動しました。ある程度年齢を重ねると、何か物事を新しく始めようとするときに、“この年齢からでは無理かも”とあきらめてしまう人が多いと思うのですが、70才を前に母が高校で学びたいと思い立った、そのバイタリティーとチャレンジ精神が素晴らしいなと思いました」

 また清治さんの妻の貴子さんもこう振りかえる。

「義母は私たちに切り出した時点では、入学に関して少し迷いもあったようです。でも私たちは、義母が、諸事情で高校卒業を断念せざるをえなかったことを聞いていましたし、その悔しい気持ちも理解できていたので、“お義母さんが後悔せんごて(しないように)”と話しました。夫が“もし、なんか協力できることがあっぎ、おれも協力すっけん”と言うと、義母はほっとしたような、うれしそうな表情をしていたと思います」

※女性セブン2016年5月12・19日号

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