甲子園球場での阪神ファンは、相手チームにとっては恐ろしい存在だ。熱狂的な虎ファンが飛ばすヤジは、敵チームにとって大いなる脅威。しかしヤジにも“不文律”は存在する。阪神ファン歴30年、この日もスタンドで観戦していた大阪府在住の会社員・桧川和昭さんはこういう。
「『アホ』『ボケ』みたいな言葉より、周りが“その通りや!”と同調したり、クスッと笑ったり、選手が打席でドキッとするようなヤジが理想なんです。だから、ヤジを飛ばす側も勉強してないとアカン。ヤジを飛ばせるのは、試合を熱心に見てる証拠でもあるんです」
確かに球場では、当意即妙の掛け声が飛び交う。4月26日の阪神対巨人戦、この日まで打率3割7分5厘を記録していたピッチャー・藤浪晋太郎に打席が回ると、「その打率、(巨人の4番の)ギャレットくん(同2割1分3厘)にちょっと分けたれや~」と声がかかる。
その藤浪が二塁打で出塁し、続く1番・高山俊の打球を一塁手のギャレットがエラーする間に藤浪が先制のホームを踏むと、「晋ちゃん(=藤浪)、凄いぞ~。3億円の巨人の慎ちゃん(=阿部慎之助。二軍で調整中)とはエラい違いや!」と、年俸まで把握していることがわかる。
そして午後7時から毎日放送の野球中継が始まると、「テレビのマイクに(わてらの声を)拾ってもらわな」とさらに張り切る。
なかなかベンチから姿を見せない高橋監督に、「ヨシノブ! そんなに怖がらんとたまには顔を見せてや。寂しいがな!」と声をかけ、しまいには「なんやヨシノブ、今日は来てないんか~」と言い出す始末。
チャンスで登場した7番村田修一にレフトスタンドの巨人応援団から“♪引っ張れ~、引っ張れ~、村田引っ張れ~”と応援歌(ザ・ヒットパレードのテーマ)が流れると、それに合わせて虎ファンは「くたばれ~、くたばれ~、読売くたばれ~」の替え歌で応戦。村田がライト側にファウルを打つたびに「たまには頼みを聞いて(レフト方向に)引っ張ったれや~」と、小ネタも挟みこんでいた。
※週刊ポスト2016年5月20日号