ライフ

若者が年配者を尊敬する世の中がやってくるためには

いつもご機嫌でいられる?(写真:アフロ)

 人はどうやって歳を取るべきなのか、歳を取ったらどうすればいいのか。コラムニストのオバタカズユキ氏が2つの例を教えてくれる。

 * * *
 私が嫌いな流行語に「オワコン」がある。消費者が商品や商品の制作者に何を思おうが自由だとしても、「終わったコンテンツ」ってその言葉、いずれブーメランになって口にしたあんたのクビを刈りに来るぞ、と言いたくなる。

 より幅広く使われている「情弱」もいただけない。もとは居住地などの問題で放送や通信のサービスを満足に受けられない人たちが「情報弱者」と呼ばれたそうだが、いまではネット情報に疎い人たちが片端から「情弱」と斬り捨てられている。

 バブル期にイケイケ、ノリノリでない者を「ネクラ」と見下す風潮があったけれども、じきにそれは「オタク」と変換され、マイナスなだけではない、一定の立ち位置を獲得した。だが、「情弱」は、プラスの何かに昇格する見込みがない。「負け組」に近い、レッテルを貼って唾を吐くような言葉の暴力性がある。

 一方で、けっこう前からキレる高齢者、「暴走老人」の増加が指摘されている。なぜ老人たちがキレるのか。その背景は複雑だが、情報環境の激変が大きな要因のひとつであることは間違いない。

 なんでもかんでもIT化、効率化が進められ、その変化についていけない者が置いていかれる。もっともっと情報技術が進歩すれば、誰でも容易に使いこなせるインターフェースも登場するのかもしれないが、今のところは、息継ぐ暇なくバージョンアップ、アップデートを求め続けられるばかりだ。

 PCやスマホがなくたって十分にコミュニケーションを取れていた時代に生きていた人たちが、それらなしでは日常生活もロクに成り立たないとなれば、苛立ちを覚えて当然だろう。新しいキカイを前にどうしたものかと立ちすくむと「情弱」と蔑まれ、私はアナログでいいんだと自分に言い聞かせようとすれば「オワコン」の烙印を押される。

 時代の変わり目というのは、そういうものなのかもしれない。だが、加齢の価値がこれほど暴落する世の中は決して出来のいいものじゃない。今は情報強者として振る舞っている世代だって、デジタルネイティブにどんどんやられていくだろうし、その10年、20年先はまた別のキカイに馴染んだ世代が台頭して、上を旧世代扱いしていく。

 人口の多い高齢者のご機嫌取り政策ばかりで若い人たちの問題が軽視されている、といったシルバー民主主義批判がよくされているが、どうしてすぐそういう世代対立に話をもっていくのだと苦々しく思う。

 人はみな歳をとる。安心して歳をとれるから、若い人たちも頑張れる。加齢を喜べる世の中じゃないと、全世代が前を向けない。形骸化した年功序列は最低だが、長幼の序自体は必要なのだ。逆風は吹き荒れるばかりだが、年長者は踏ん張らなければならない。

 そんなことをよく考えていたところ、先日、私の思いを代弁してくれる、実に気持ちのいい年長者を見ることができた。現在放送中の連続ドラマ『重版出来!』第8話での場面である。

 原作マンガの魅力を丹念に実写化したすぐれたドラマとして毎週楽しみに見てきたのだが、第8話で松重豊演じる和田編集長の長セリフには心を動かされた。阪神タイガースとギャンブル好きで、人は良さそうだが気分屋、仕事ができるかどうか微妙な印象の編集長が、見得を切ったのだ。20年前に大ヒット作品を出して以来、描けなくなって引きこもり中の伝説のマンガ家をこう叱咤した。

〈わたしももう50を超えました。トラキチの若造が『バイブス』の編集長です。出版不況やら何やら、先生が現役の頃とはまるで違います。どんどんどんどん変わっていって、どうすりゃいいのかわからんことだらけです! でも、あの頃になんか戻れないし、今ここで、私ら生きていかなきゃならんでしょう! 私にも中学生の娘がいます。生意気でどうしよーもない娘ですが、私ら大人は、子供の前でカッコつけなきゃならんでしょう! 我々マンガ屋は夢を売っているんですから!〉

 中途半端に歳をとった私と同年代の設定ということもあるが、〈私ら大人は、子供の前でカッコつけなきゃならんでしょう!〉と言い切った編集長は実にカッコよかった。自分も見習わなきゃと、率直に思った。

関連キーワード

関連記事

トピックス

イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《ビザ取り消し騒動も》イギリス出身の金髪美女インフルエンサー(26)が次に狙うオーストラリアでの“最もクレイジーな乱倫パーティー”
NEWSポストセブン
将棋界で「中年の星」と呼ばれた棋士・青野照市九段
「その日一日負けが込んでも、最後の一局は必ず勝て」将棋の世界で50年生きた“中年の星”青野照市九段が語る「負け続けない人の思考法」
NEWSポストセブン
東京都慰霊堂を初めて訪問された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年10月23日、撮影/JMPA)
《母娘の追悼ファッション》皇后雅子さまは“縦ライン”を意識したコーデ、愛子さまは丸みのあるアイテムでフェミニンに
NEWSポストセブン
2023年に結婚を発表したきゃりーぱみゅぱみゅと葉山奨之
「傍聴席にピンク髪に“だる着”姿で現れて…」きゃりーぱみゅぱみゅ(32)が法廷で見せていた“ファッションモンスター”としての気遣い
NEWSポストセブン
「鳥型サブレー大図鑑」というWebサイトで発信を続ける高橋和也さん
【集めた数は3468種類】全国から「鳥型のサブレー」だけを集める男性が明かした収集のきっかけとなった“一枚”
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKI(右/インスタグラムより)
《趣里が待つ自宅に帰れない…》三山凌輝が「ネトフリ」出演で超大物らと長期ロケ「なぜこんなにいい役を?」の声も温かい眼差しで見守る水谷豊
NEWSポストセブン
活動休止状態が続いている米倉涼子
《自己肯定感が低いタイプ》米倉涼子、周囲が案じていた“イメージと異なる素顔”…「自分を追い込みすぎてしまう」
NEWSポストセブン
松田聖子のモノマネ第一人者・Seiko
《ステージ4の大腸がんで余命3か月宣告》松田聖子のものまねタレント・Seikoが明かした“がん治療の苦しみ”と“生きる希望” 感激した本家からの「言葉」
NEWSポストセブン
“ムッシュ”こと坂井宏行さんにインタビュー(時事通信フォト)
《僕が店を辞めたいわけじゃない》『料理の鉄人』フレンチの坂井宏行が明かした人気レストラン「ラ・ロシェル南青山」の閉店理由、12月末に26年の歴史に幕
NEWSポストセブン
ナイフで切りつけられて亡くなったウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(Instagramより)
《19年ぶりに“死刑復活”の兆し》「突然ナイフを取り出し、背後から喉元を複数回刺した」米・戦火から逃れたウクライナ女性(23)刺殺事件、トランプ大統領が極刑求める
NEWSポストセブン
『酒のツマミになる話』に出演する大悟(時事通信フォト)
『酒のツマミになる話』が急遽差し替え、千鳥・大悟の“ハロウィンコスプレ”にフジ幹部が「局の事情を鑑みて…」《放送直前に混乱》
NEWSポストセブン
『週刊文春』によって密会が報じられた、バレーボール男子日本代表・高橋藍と人気セクシー女優・河北彩伽(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
「近いところから話が漏れたんじゃ…」バレー男子・高橋藍「本命交際」報道で本人が気にする“ほかの女性”との密会写真
NEWSポストセブン