◆似た発想の生物兵器が開発中?

 注目は〈ゴホッ、ゴホッ〉と、誰が、どの時点で咳をしているか―。世界中で死者を増やすこの感染症は、発症に〈ほぼ正確に一ヶ月かかる〉不自然さから生物兵器の可能性も指摘され、発症すれば脳出血で即死に至る〈時限爆弾〉だった。

「潜伏期間を1か月にしたのは、仮に彼らがその状況で使うとしたら、〈正確性と遅発性〉が不可欠だから。テロとの戦いが叫ばれる昨今、現に似た発想の生物兵器が開発中とも聞きます」

 日本では同地に出張した外務省職員らが最初の死者とされ、政府は「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく夜間外出自粛令を発令。なぜか犠牲者は中年以下に集中し、町から若者が消え、老人が闊歩する逆転現象も起きていた。

 一方小島の感染に疑問を抱く万里菜は、ロシア当局から〈あなたはすでに問題ない〉と帰国を命じられた自分こそが〈日本で最初の感染者〉ではないか、だとすればなぜ死なないのかと、謎の究明に奔走した。ちなみに外務省職員らの帰国は11月14日。その翌月14日に職員と小島が死に、刻々と変わる日付も緊迫感を煽る。

「私自身、いわゆる陰謀論を鵜呑みにこそしませんが、ネット上に飛び交うデマや虚構の中にも、何かしらの真実が潜む可能性は否定できないと思う。海外ドラマにハマるのも、当局やそれに近い筋に取材したギリギリの現実をエンタメ化しているからで、本書に書いた事態に近いことはいつ起きてもおかしくありません」

 また、本書では〈真実は目を刺す〉など、万里菜が父に教わったロシアの諺が、彼女の闘いに深みを添える。

「私が好きなのは〈モスクワは涙を信じない〉ですね。それを〈泣いても怒っても現実は変わらない〉と解釈する彼女の姿に何かを感じてくれれば嬉しいし、今後も私自身が愛してやまないドキドキやハラハラを面白い小説に書いていきたい」

 その兵器を誰が開発し、誰に渡ったのか。後に万里菜が掴む真相は絵空事では済まないリアリティを孕む。〈歴史的に、武器は必要でないところから必要なところに流れる〉という言葉が耳を離れない、これはテロや紛争を遠い対岸の火事と思い込む私たちの危機なのだ。

【プロフィール】はつせ・れい:1966年長野県生まれ。テレビ局で報道や番組制作に携わる。「番組と小説を混同されたくないので、本名や経歴は伏せています」。5年前、「その話、小説にしてみたら?」という知人の一言を機に執筆を開始。「既に現実になってしまいましたが、最初に書いたのは金正恩が後継になった北朝鮮を描く、登場人物が実名のシミュレーション小説でした」。2013年『血讐』で第1回日本エンタメ小説大賞優秀賞を受賞し、文庫デビュー。179cm、95kg、A型。

■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光

※週刊ポスト2016年6月10日号

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