実際、いま中国から日本にやって来るクルーズ客船の多くは、ホテル代わりになっている。たとえば、九州・福岡の博多港に入港するクルーズ客船は1隻約4000人の乗客を運んでくるが、乗客たちは日中は観光に出かけ、夜は船に戻って宿泊している。九州は高速道路などの交通網が発達しているので、福岡から熊本や鹿児島あたりまでバスで日帰りもできるからだが、結果的に九州の地元には宿泊や滞在に伴う観光収入が入らなくなっている。
ところが、こうした動きに多くの日本人はまだ気づいていない。そのためデベロッパーも、中華系の富裕層を狙って東京都心部に1戸200平方メートルくらいの超高級マンションを建設する勇気がない。また、ゼロ金利時代は「資産をキャッシュに」がキーワードであり、資産からどうキャッシュを生むかを考えるべきなのに、日本人の多くは利息のつかない銀行預金や、ローンが残っている支払いだけの不動産のまま“塩漬け”にしている。
その間に、中国人たちはどんどん日本で同朋を相手に稼いでいるのだ。
私は日本側の対案がなさすぎると思う。知恵を絞れば、ビジネスの“鉱脈”はたくさんあるはずだ。たとえば、かつて欧米の豪華客船が日本に来航していた時代は、神戸港で乗客を降ろし、バスで京都や奈良、富士山、日光、東京を観光して横浜港から同じ船で帰る「オーバーランド」という方法が主流だったが、中国企業と提携して中国人観光客向けにそうしたツアーを企画するなど、日本にカネを落とすためにやれることはいろいろあると思う。
もっとアグレッシブに中国人のニーズに対応し、この千載一遇のビジネスチャンスを生かすべきである。
※週刊ポスト2016年6月17日号