●自主防衛のコスト
日米同盟は米軍が「矛」、自衛隊が「盾」の役割を担う。仮に完全自主防衛するためには、
[1]島嶼防衛のための部隊と輸送力(2993億円)
[2]攻勢作戦を担う空母機動部隊(1兆7676億円)
[3]対地攻撃能力と対空戦闘能力を持つ戦闘機(1兆1200億円)
[4]日米が共同開発したミサイル防衛システムに代わる情報収集衛星や無人偵察機(8000億円)
[5]ミサイルを打ち込まれた場合に被害を最小化する民間防衛体制(2200億円)
が新たに必要になる。総額は4兆2069億円だ。
また仮に日米同盟が解体するとなれば、日本の国際的な評価が下がり、貿易額の減少、エネルギー価格の高騰、円・株式・国債価格の下落による経済低迷が想定される。これらを「間接経費」というが、貿易額が6兆8250億円で、円・株式・国債価格の下落が12兆円、エネルギーが最大2兆5000億円で、合計21兆3250億円となる。
直接経費と間接経費の総額は、最大25兆5319億円に達すると武田教授は推計する。
以上は「日米同盟解体」という極端なケースを仮定した試算だが、より現実的なのは、日米同盟を維持しつつ、日本の防衛力を高め、機能を拡充する方法だろう。
「トランプ氏が日本の経費負担増を求めるなか、日米同盟の枠組みを維持したまま、日本の防衛努力を現状より増やす方向もあり得る。核の傘に加え、ミサイル防衛システムを支える高度な技術と情報を米軍に頼りつつ、尖閣など島嶼防衛やシーレーン対策で日本の負担を増やせば、それに応じて負担が軽減される米国は歓迎するだろう」(武田教授)
このやり方なら全面自主防衛より低コストで安全保障を維持できる。
※SAPIO2016年8月号