POSCOは日韓国交正常化(1965年)の際、日本から提供された資金と日本の技術で建設された“日韓合作”のシンボル企業だった。世界的鉄鋼会社に成長し、当初は国営だったがその後、民営化し建設分野などを含む大企業グループになった。
規制が多い韓国では許認可などをめぐって政官界への“ロビー工作”は不可欠。そのため各財閥は帳簿操作などで「ピジャクム(秘資金)」と称する工作資金を捻出するのがいわば慣例のようになってきた。だからサムスン以下、みんな「叩けばホコリは出る」ようになっている。
歴代政権とも「庶民の味方」という正義パフォーマンスのため、思い出したように“財閥叩き”をやってきた。朴槿恵政権は「経済民主化」を公約に掲げている。最大課題の経済再跳躍がままならないなか、庶民(世論)の不満解消を狙って“財閥叩き”に乗り出したかたちだ。
流通や食品が主力でみんな知っているロッテはヤリ玉に上げやすい。それにロッテは日本系ということでいつもマスコミの反日報道のエサになってきた。日本生まれの後継者を「なぜ韓国語が下手なんだ!」と非難し、日本からの投資分に対する利益送金を「国富流出」と犯罪視するのが韓国世論である。ロッテは実に叩きやすいのだ。
それにしてもロッテといいPOSCOといい、父・朴正熙が高度経済成長のため心血を注いで育てた「民族中興」の企業が、娘の政権下で遠慮会釈なくイジメられている。いずれも日本と関係の深かった企業だ。苦しい時の恩を忘れた背信である。日本人の目にはこれまた「韓国の賞味期限切れ」を思わせる。
文/黒田勝弘
【PROFILE】1941年生まれ。京都大学卒業。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長を経て産経新聞ソウル駐在客員論説委員。著書に『決定版どうしても“日本離れ”できない韓国』(文春新書)、『韓国はどこへ?』(海竜社刊)など多数。
※SAPIO2016年9月号