舛添要一前都知事が正月の時期にリゾートホテルで「会議」を行ったという疑惑は連日マスコミで大きく報じられ、辞任の大きな理由となった。この時は、「一緒に会議をした人物が誰か?」などが焦点となったが、舛添氏は結局その名前は明かさなかった。ホテルに取材攻勢があったことは想像に難くないが、ホテルはどんな場合でも、客の情報を守らなければいけないのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
ホテルに勤務しています。舛添元都知事とリゾートホテルの件は他人事ではなく推移を見守っていました。心配なのは同様の問題が勤務先でも起き、マスコミからの問い合わせが殺到した場合、どこまで宿泊客の情報を秘匿すればよいのかということ。やはり一切の情報を公にせず、宿泊客を守るべきですか。
【回答】
マスコミに限らず、顧客情報を第三者に話すべきではありません。そもそも誰がいつどこに泊まったかは、その人の私生活上の事実です。普通の人の感覚で、知られると不安に感じたり、困惑を覚えることです。
広く知られていない他人のこのような種類の私生活上の事実を知らせることは、プライバシーの侵害であり、正当な理由がない限りは不法行為となり、損害賠償の義務を負うことになります。
また、ホテルは顧客に平穏かつ安全な宿泊を提供するサービス業です。明示された合意がなくても宿泊契約により、ホテルは顧客に対して、その秘密を守る付随的な義務を負っていると考えられます。ですから、その情報を漏らせば約束違反になります。
さらにホテルでは通常、コンピューター上で宿泊者名簿などを作って顧客情報を管理しています。当然、その中には顧客の住所氏名など個人を識別できる情報、すなわち個人情報が含まれています。
個人情報保護法は、個人情報をコンピューターで管理している事業者を個人情報取扱事業者と定め、個人情報の漏えいを防ぐために厳格な体制を求めています。違反した場合には、個人情報保護委員会から勧告や命令を受け、従わないと処罰されます。
以上のとおり、ホテルは宿泊者の情報をマスコミに知らせることはできません。もし、従業員がマスコミに話し、その結果、顧客が損害を被った場合には、顧客からは損害賠償の請求を受け、個人情報保護法違反として行政上の処分も受ける可能性があります。
ホテル側はなにより、従業員がうっかり顧客情報を漏らしたりしないよう、顧客情報の保護と漏えいに注意したマニュアルを定め、個人情報保護の重要さを教育していくことが大切です。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2016年9月9日号