「昭和の時代には活躍してくれましたが、今はもうずっと眠っています。大きくて重いんで、これは動かさずに建て替えたんですよ。店が続く限り、このまま置いとくことになるでしょうね」(久蔵さん)
床板は30㎝四方の天然木素材で、建て替えのときに敷き詰めたもの。
「それまではコンクリートの床だったんですけど、冬は冷えましてねえ。それがこれにしたら底冷えはしなくなったし、酒びんなどを落としても割れることが減りました。重宝しています」(喜美江さん)
そんなレトロたちが、角打ち客にのんびりと昔を語り、今を癒してくれているのだ。
角打ちは朝からできる店なのだが、夕方5時前後になって、いつもの顔がいつものように揃ってきた。
「昔は企業や工場がたくさんあって毎日混んでいた分、荒っぽいお客さんも多かったのよ。そこへいくと今は、空いているわね(笑い)。でもみんな静かに飲んでくれるし、いい人ばっかりなんですよ」(喜美江さん)
「ほんとですか? それはそれはお誉めに預かり光栄です。でも実はね、3年半前に初めて来たときに親父さん(志賀さん)夫婦がすごく感じよくてね。それが気に入って通ってるんですよ」(60代、自由業)
「同感でしょ。でも言われてみると、みんな静かに飲んでるよね。気を使っているわけじゃなく、安心しきってるんだと思う。それだけ落ち着けるんで、毎日通ってますよ。そろそろ50年になるかな。ここ10年ほどは息子が仕事休みの日には、必ず一緒に来てくれるのもうれしいね」(60代、鈑金業)
「つまみは乾き物が置いてあるだけなんだけど、この店の雰囲気にはぴったりで、それは全然文句なし。ここで僕がいつも飲んでいるのは焼酎ハイボール。家でも普通に飲んでますよ。辛口で飲みごたえがあって、気持ちよく酔えますからね。下町に最高に似合う酒だと思っているんです」(40代、飲食業)
店の壁には野球のユニフォーム姿の集合写真が何枚も飾られている。
「このあたり、草野球やソフトボールのチームがたくさんあって、休みの日には早朝から近くのグラウンドで試合をするんです。終わった後、そんな早い時間からみんなが集まって打ち上げできる店が他にはないもんで、皆さんには喜んでもらっています。私も80歳を過ぎてしまいましたが、せがれが4代目を継いでくれそうなので、こういうたまり場も続くと思います」