◆祖父がやり残したこと

 官邸5階の総理執務室の机の上には、常に茶色い表紙の1冊の本が置かれている。『岸信介回顧録 保守合同と安保改定』──。安倍首相はこの回顧録をボロボロになるまで読み返し、祖父の岸氏がやり残した日ロ平和条約に決意を燃やしている。

 プーチン大統領も同じだ。「われわれはすべての隣国とのあらゆる係争問題を解決したい。日本も含めてだ」──10年以上前にそう語り、最初の大統領就任以来、周辺諸国との領土交渉に次々と成果を挙げてきた。

 とくに中国との間では、何度も武力紛争が起きた極東アルグン川の大ウスリー島など3つの川中島をめぐる総面積375平方キロの境界線の画定交渉を秘密裏に進め、面積ほぼ2分割という形で電撃的に決着。ロシアが実効支配していた係争地の半分を中国に引き渡した。この「引き分け(面積等分)」がプーチン方式であり、カザフスタンとの国境やノルウェーとの海上国境でも適用されている。外務省関係者が語る。

「プーチン大統領はこれまでの日ロ首脳会談でも領土交渉について『引き分け』という言葉を何度も使っている。日ソ共同宣言に基づいて歯舞、色丹の2島は引き渡すから、それで決着させたいということ。しかし、2島では北方領土の面積の7%にすぎず、引き分けにはならない。飲めないというなら日本がアイデアを出してくれという姿勢だ。

 そこで水面下では、2島返還に加えて、国後、択捉の日本の主権を認めさせる代わりにロシアに租借する案や、国後、択捉については主権問題を継続協議にして共同で経済開発する案などが浮かんでいる。“2島プラスα”をどこで折り合うかは安倍総理の決断に懸かっている」

 領土交渉(国境画定)には両国の妥協が必要で、どんな決着であれ、双方の国内に不満や批判があがり、それを乗り越えるだけの強い政治基盤が必要になる。

 過去、日本と領土交渉を行なったゴルバチョフ大統領やエリツィン大統領は権力基盤が不安定だった。プーチン大統領が各国との国境画定を次々と決めていったのは、それだけの権力を握っているからだ。安倍政権も衆参で圧倒的な勢力を持つ。

 それだけに日ロ両国に強い政権が出現した今が大きなチャンスであり、12月の日ロ首脳会談で2人が決断すれば、「夢物語」と思われていた北方領土返還が電撃的に決まる可能性は十分にある。

※週刊ポスト2016年10月14・21日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

シーズンオフを家族で過ごしている大谷翔平(左・時事通信フォト)
《お揃いのグラサンコーデ》大谷翔平と真美子さんがハワイで“ペアルックファミリーデート”、目撃者がSNS投稿「コーヒーを買ってたら…」
NEWSポストセブン
愛子さまのドレスアップ姿が話題に(共同通信社)
《天皇家のクリスマスコーデ》愛子さまがバレエ鑑賞で“圧巻のドレスアップ姿”披露、赤色のリンクコーデに表れた「ご家族のあたたかな絆」
NEWSポストセブン
1年時に8区の区間新記録を叩き出した大塚正美選手は、翌年は“花の2区”を走ると予想されていたが……(写真は1983年第59回大会で2区を走った大塚選手)
箱根駅伝で古豪・日体大を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈3〉元祖“山の大魔神”の記録に挑む5区への出走は「自ら志願した」
週刊ポスト
12月中旬にSNSで拡散された、秋篠宮さまのお姿を捉えた動画が波紋を広げている(時事通信フォト)
〈タバコに似ているとの声〉宮内庁が加湿器と回答したのに…秋篠宮さま“車内モクモク”騒動に相次ぐ指摘 ご一家で「体調不良」続いて“厳重な対策”か
硫黄島守備隊指揮官の栗林忠道・陸軍大将(写真/AFLO)
《戦後80年特別企画》軍事・歴史のプロ16人が評価した旧日本軍「最高の軍人」ランキング 1位に選出されたのは硫黄島守備隊指揮官の栗林忠道・陸軍大将
週刊ポスト
米倉涼子の“バタバタ”が年を越しそうだ
《米倉涼子の自宅マンションにメディア集結の“真相”》恋人ダンサーの教室には「取材お断り」の張り紙が…捜査関係者は「年が明けてもバタバタ」との見立て
NEWSポストセブン
地雷系メイクの小原容疑者(店舗ホームページより。現在は削除済み)
「家もなく待機所で寝泊まり」「かけ持ちで朝から晩まで…」赤ちゃんの遺体を冷蔵庫に遺棄、“地雷系メイクの嬢”だった小原麗容疑者の素顔
NEWSポストセブン
平沼翔太外野手、森咲智美(時事通信フォト/Instagramより)
《プロ野球選手の夫が突然在阪球団に移籍》沈黙する妻で元グラドル・森咲智美の意外な反応「そんなに急に…」
NEWSポストセブン
死体遺棄・損壊の容疑がかかっている小原麗容疑者(店舗ホームページより。現在は削除済み)
「人形かと思ったら赤ちゃんだった」地雷系メイクの“嬢” 小原麗容疑者が乳児遺体を切断し冷凍庫へ…6か月以上も犯行がバレなかったわけ 《錦糸町・乳児遺棄事件》
NEWSポストセブン
11月27日、映画『ペリリュー 楽園のゲルニカ』を鑑賞した愛子さま(時事通信フォト)
愛子さま「公務で使った年季が入ったバッグ」は雅子さまの“おさがり”か これまでも母娘でアクセサリーや小物を共有
NEWSポストセブン
62歳の誕生日を迎えられた皇后雅子さま(2025年12月3日、写真/宮内庁提供)
《累計閲覧数は12億回超え》国民の注目の的となっている宮内庁インスタグラム 「いいね」ランキング上位には天皇ご一家の「タケノコ掘り」「海水浴」 
女性セブン
ネックレスを着けた大谷がハワイの不動産関係者の投稿に(共同通信)
《ハワイでネックレスを合わせて》大谷翔平の“垢抜け”は「真美子さんとの出会い」以降に…オフシーズンに目撃された「さりげないオシャレ」
NEWSポストセブン