「移動手段がなくなることで、引きこもりのような状態になってしまうリスクが増します。また、運転免許を持っていることは、“まだ自分も現役だ”というある種のプライドにつながっている場合もあるのです。
例えば80代の方でも、自分より高齢の人や足の不自由な人を車で郵便局や病院に連れていったり、孫の習い事の送り迎えをしたりすることで“歳をとっても社会の役に立てている”“必要とされている”と感じ、それが心の支えになっている場合が多い。
それを失うと“自分は生きていても役に立たない”“ただ面倒を見てもらって生きているだけ”などと自信を無くし、気持ちが沈みこむ。そうした気分の落ち込みは脳の機能低下につながります」
実際に免許を自主返納した後に認知症を発症したというのが、茨城県在住の85歳男性・A氏だ。A氏は「認知症予防のために」と69歳からゴルフを始め、自分で運転して地元のゴルフ場に通うのを楽しみにしていた。しかし、事故を心配した家族に説得され、昨年、半ば強制的に免許を自主返納させられた。A氏の長男がいう。
「本人は『まだ自分は頭もしっかりしているし、車を取り上げられたら自由に動けなくなる』と怒っていました。しぶしぶ自主返納した後はゴルフに行く機会がめっきり減り、家でボーッと過ごす時間が増えました。しばらくすると認知症の症状が出始めた。免許を取り上げたのがいけなかったのか、と少し後悔しています」
埼玉県在住の87歳男性・B氏も、免許の自主返納後、健康状態に大きな影響が出た。B氏の知人の話。
「このあたりはバスの便も少なく、車がないと出かけるのが大変。Bさん夫婦も以前は車に乗って隣町のスーパーに買い物に行ったり、公園の散歩なんかによく出かけていたけど、免許がなくなってからはほとんど家にこもりっきりで認知症の症状も出てきた。今では奥さんの病院通いもタクシーなので、“お金がもたない”と嘆いています」