◆「隠れ高血圧」にも対応
高血圧患者にとって渡りに船となる「高血圧ワクチン」はどのようなものか。
人間の体内には異物を退ける「免疫システム」が備わっている。ワクチン療法とは、体内に病原体などの「抗原」を送り込むことで免疫システムを活性化し、病原体に抵抗する「抗体」、つまり免疫を生成することで、感染症を予防・治療するものだ。
そこから一歩進んだのが、抗原の遺伝子を注入する「DNAワクチン」だ。感染症のほか、がんやアルツハイマーなどでも開発が進み、「未来のワクチン」と呼ばれる。今回、治験が始まる「高血圧ワクチン」もDNAワクチンの一種だ。ワクチンの開発者である森下教授が解説する。
「人間の体内には、血圧を上げる働きを持つ物質『アンジオテンシンII』があり、この物質が体内で生成されて腎臓に作用すると血圧が上昇します。私たちが開発したワクチンはこの物質を生み出すDNAとタンパク質を体内に投与し、免疫機能を活性化させ血圧の上昇を防ぎます」
では高血圧ワクチンは従来の降圧剤と何が違うのか。決定的な違いは、ワクチン効用の「持続期間」だと森下教授が続ける。
「従来の降圧剤は服用のたびにその都度、血圧を上げる物質を抑える“対処療法”で効果は短いものが多い。ですが、ワクチンを摂取すれば体内に抗体を維持し続けるため、1回の注射で数年以上にわたって効果の持続が期待できます。
ネズミの実験では寿命の4分の1にあたる半年以上も効果が続きました。単純比較はできませんが、これは人間に当てはめると20年以上に相当します」
※週刊ポスト2016年12月23日号