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2016.12.22 16:00  週刊ポスト

【書評】「指導」するのではなく大衆的感覚に依拠する志

 年末年始はじっくりと本を読む良いチャンスだが、本読みの達人が選ぶ書は何か。ノンフィクションライターの与那原恵氏は、「ポピュリズム」を読み解く書として『娯楽番組を創った男 丸山鐵雄と〈サラリーマン表現者〉の誕生』(尾原宏之・著/白水社/2200円+税)を推す。与那原氏が同書を解説する。

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 ドナルド・トランプの米大統領選の勝利は、彼の当選を予期できなかった米国メディアの敗北ともいわれる。大都市を拠点にするメディアは知性主義を信奉してきた。だが、広大な米国内におけるポピュリズム(大衆主義)の台頭、内部の対立感情を見抜くことができなかったと指摘される。

 日本の戦前戦後精神史と、放送メディア史を描く試みという本書の主人公は、丸山鐵雄である。政治学者・思想家の丸山眞男の兄で、昭和九年に日本放送協会に入り、娯楽番組の制作者となった。戦後、ラジオ番組「日曜娯楽版」で一世を風靡し、「のど自慢」の立ち上げを主導した伝説的人物だ。この二つの番組は、鐵雄が唱えつづけた大衆のための番組論がようやく形になったといえるだろう。

 著者はかつてNHKに勤務し、現在は日本政治史の研究者である。鐵雄を組織の中で表現の仕事をする〈サラリーマン表現者〉と呼ぶ。新しい表現を模索し、挑みながらも組織の壁とぶつかってしまい、〈そしていつしか、壁の中で思考し、行動することが当たり前になる〉。今日も身につまされるサラリーマン像だが、鐵雄の放送人としての大半は戦中、そして戦後のGHQ統制下にあった。

 鐵雄がNHKに入局した当時、聴取契約数は右肩上がりの伸びだったが、解約数も多いのは、娯楽番組への不満があったからだ。「国策臭」に満ちた押しつけがましい番組が受け入れられなかった。

 放送局員には大衆を「指導」しようとする傾向があったが、鐵雄は自らの大衆的感覚に依拠した番組を志した。組織から排除されないように注意しつつも、最大限の抵抗を試みる。時局を風刺する「時事歌謡」を作詞し、十五年から翌年にかけて電波に乗せ、翌年には現代のバラエティ番組の手法に取り組んでもいる。

 だが戦局が激しくなるにつれ、放送界への政治的圧力とともに、風刺や娯楽を楽しむ余裕を失った大衆そのものが変質していく。鐵雄の人生を通じて、生き物としてのポピュリズムを見つめる。

※週刊ポスト2017年1月1・6日号

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