損失が一番大きいのはやはり年金。元サラリーマンの夫と専業主婦の妻の標準モデル世帯の年金受給額(夫婦合計)は月額約22万1279円だが、支給開始が65歳から75歳に10年延期されると、単純計算で10年分・約2655万円がもらえなくなる。その分、国が払う厚生年金支給総額(23.3兆円。2015年度)は半分に減る。

 次に医療費。現在、70歳以上の1人あたり国民医療費は平均82万円(年間)、窓口2割負担で計算すると年間の自己負担額は約16万4000円だが、これが3割になると24万6000円に増える。

 介護保険の給付(原則65歳から)が75歳以上に引き上げられた場合の影響は深刻だ。

 現在、要介護認定を受けた人がヘルパーの派遣や施設利用などの際に介護保険から支払われる平均給付額は1人月額約15万7000円。年間188万円にのぼる。仮に、70歳で介護が必要になった場合、75歳受給開始まで約1000万円を丸ごと自己負担しなければならない事態もありうる。

 さらに自治体の高齢者向けサービスとして、65歳以上の高齢者にバスや地下鉄乗り放題の「敬老パス」の配布や福祉タクシー利用券の配布、水道料金の減免、鍼灸マッサージ券などが提供されているケースが多い。それらのサービスも対象年齢が75歳以上に引き上げられる可能性が高い。

「かつて年金は60歳支給で、リタイアした後に商売をしたり、ボランティアをするなど第2の人生設計の重要な糧となっていた。それが現在は65歳支給まで引き上げられたが、日本人の生物的年齢が若返っているからまだ65歳から10年くらいは元気で第2の人生を自ら設計できるわけです。

 しかし、75歳支給になると、体が動かない。高齢者年齢を引き上げ、年金や福祉サービスをそれまで与えないというのは、国民の人生設計の選択をなくし、体が動かなくなるまでは会社に奉職しろというに等しい」(北村氏)

 75歳までは「支える側」として負担も強いられる。月額20万円の収入の場合、厚生年金(収入の約18%)、健康保険(同約10%)の保険料の半分が自己負担となり、毎月約3万円を払い続ける計算になる。

 日本の人口のうち15歳から74歳まででほぼ1億人。これが安倍政権が掲げる1億総活躍社会の姿のようだ。

※週刊ポスト2017年1月27日号

関連記事

トピックス

山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《噂のパートナーNiki》この1年で変化していた山本由伸との“関係性”「今年は球場で彼女の姿を見なかった」プライバシー警戒を強めるきっかけになった出来事
NEWSポストセブン
送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
「とにかく献金しなければと…」「ここに安倍首相が来ているかも」山上徹也被告の母親の証言に見られた“統一教会の色濃い影響”、本人は「時折、眉間にシワを寄せて…」【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
マレーシアのマルチタレント「Namewee(ネームウィー)」(時事通信フォト)
人気ラッパー・ネームウィーが“ナースの女神”殺人事件関与疑惑で当局が拘束、過去には日本人セクシー女優との過激MVも制作《エクスタシー所持で逮捕も》
NEWSポストセブン
【白鵬氏が九州場所に姿を見せるのか】元弟子の草野が「義ノ富士」に改名し、「鵬」よりも「富士」を選んだことに危機感を抱いた可能性 「協会幹部は朝青龍の前例もあるだけにピリピリムード」と関係者
【白鵬氏が九州場所に姿を見せるのか】元弟子の草野が「義ノ富士」に改名し、「鵬」よりも「富士」を選んだことに危機感を抱いた可能性 「協会幹部は朝青龍の前例もあるだけにピリピリムード」と関係者
NEWSポストセブン
デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組・司忍組長2月引退》“竹内七代目”誕生の分岐点は「司組長の誕生日」か 抗争終結宣言後も飛び交う「情報戦」 
NEWSポストセブン
部下と“ホテル密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト/目撃者提供)
《前橋・小川市長が出直し選挙での「出馬」を明言》「ベッドは使ってはいないですけど…」「これは許していただきたい」市長が市民対話会で釈明、市議らは辞職を勧告も 
NEWSポストセブン
活動を再開する河下楽
《独占告白》元関西ジュニア・河下楽、アルバイト掛け持ち生活のなか活動再開へ…退所きっかけとなった騒動については「本当に申し訳ないです」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している
《MVP受賞のウラで》大谷翔平、ハワイ別荘泥沼訴訟は長期化か…“真美子さんの誕生日直前に審問”が決定、大谷側は「カウンター訴訟」可能性を明記
NEWSポストセブン
11月1日、学習院大学の学園祭に足を運ばれた愛子さま(時事通信フォト)
《ひっきりなしにイケメンたちが》愛子さま、スマホとパンフを手にテンション爆アゲ…母校の学祭で“メンズアイドル”のパフォーマンスをご観覧
NEWSポストセブン
今季のナ・リーグ最優秀選手(MVP)に満票で選出され史上初の快挙を成し遂げた大谷翔平、妻の真美子さん(時事通信フォト)
《なぜ真美子さんにキスしないのか》大谷翔平、MVP受賞の瞬間に見せた動きに海外ファンが違和感を持つ理由【海外メディアが指摘】
NEWSポストセブン
柄本時生と前妻・入来茉里(左/公式YouTubeチャンネルより、右/Instagramより)
《さとうほなみと再婚》前妻・入来茉里は離婚後に卵子凍結を公表…柄本時生の活躍の裏で抱えていた“複雑な感情” 久々のグラビア挑戦の背景
NEWSポストセブン