韓国・朴槿恵大統領の、親友である女性実業家の崔順実(チェスンシル)へ政府の機密情報を漏洩した一連のスキャンダルは、朴政権と密接に繋がる財界に波及し、サムスン電子副会長・李在鎔(イジェヨン)氏に逮捕状が請求されるなど(のちに棄却)、韓国経済に危機が迫っている。なぜこれだけ“朴スキャンダル”の余波が財閥に広がったのか。背景にあるのは、韓国に巣食う格差からくる「恨(ハン)」の感情だ。
拓殖大学教授で韓国出身の評論家である呉善花(オソンファ)氏がいう。
「韓国の若者は就職難から夢や希望を諦めるという絶望的な状況に苦しみ、自国のことを『ヘル(地獄)朝鮮』と呼んでいます」
若者は、財閥企業など限られた人たちの間でだけカネが回る状況に絶望感を抱き、そのやり場のない怒りのはけ口を財閥糾弾に求めているのだ。元朝日新聞ソウル特派員でジャーナリストの前川惠司氏は、「だから、捜査当局もサムスン追及に動かざるを得なかった」という。
ただ、そうした追及も一時のガス抜きだ。韓国では有力な財界人、政治家は逮捕されても恩赦される状況が繰り返されてきたからだ。
1997年には、サムスン電子・李健煕(イゴンヒ)会長が全斗煥(チョンドファン)・盧泰愚(ノテウ)両元大統領への贈賄事件で逮捕されたが、その年のうちに恩赦されている。2006年には1380億ウォン(約167億円)を不正調達した横領などで逮捕された自動車メーカー、現代自動車グループ会長の鄭夢九(チョンモング)氏が、やはり2008年の光復節(8月15日)で特赦により赦免された。