「『受かったのはどいつだ』と先輩が教室に見に来て、オーディションの翌日から学校中で大騒ぎでした。撮影は夏休みの前10日間と夏休みを合わせて40日間で収めたんですけど、お父さん役の小池朝雄さんをはじめ、大人たちとの撮影が新鮮でおもしろかった。セリフ覚えで苦労したという印象もなくて、ただただ楽しかったですね」
博多を舞台に中学生の青春群像を描いたこの作品に、北九州育ちの純粋でやんちゃな16歳はぴったりはまった。
初主演で役者の醍醐味を知った光石は、高校卒業を待って上京、緒形拳らが所属する事務所に入り、俳優としてのスタートを切る。ときを移さず、NHK大河ドラマや山田洋次監督の『男はつらいよ』といったメジャー作品に出演し始める。
もっともそれは実力というよりは、名優・緒形拳との抱き合わせ、「バーター出演」に過ぎず、「緒形さんに食わせてもらっていたようなものです」と話す。
演技をまともに習ったことのない素人は、ほどなく壁にぶつかる。
「『博多っ子純情』では、やりたい放題やらせてもらったので、山田洋次監督のところでも同じような調子で演じたら、ものすごく怒られました。
山田さんもスタッフも怖くてね。『男はつらいよ』のタイトルバックに出るだけのアベック役だったけど、『ダメだ、ダメだ、もう1回、もう1回。君は何なんだ』って、もう、めちゃくちゃ言われました。
それで次に相米慎二監督の現場に行ったら『お前、いったい何を教えてもらったんだ』とまた怒られて。目立とうと演技過剰だったんでしょうね。怒られ続けていました」
そんな中で、光石の唯一の救いとなったのは、緒形から言われた「君はおもしろいな、いまが辛抱だぞ」という一言だった。