役者・小日向を語るとき、心の底に闇を抱える悪人の「黒小日向」と善人の「白小日向」という言葉がしばしば使われる。
真っ黒な「黒小日向」を初めて映像化したのは、『アウトレイジ』で小日向を起用した北野監督だ。マル暴刑事に最も見えない人がその役を演じることで強調される凄み。そうしたギャップの妙は、小日向の揺るぎない持ち味の一つとなっている。
「北野監督が以前おっしゃってたんですけど、すごい人のいい下町のコロッケ屋の親父が店を閉めて家に帰ると近所の悪口ばっかり言っている、というイメージらしいですよ、僕は(笑い)」
稀代のバイプレイヤーに、今後どんな役を演じてみたいのかを尋ねてみた。
「自分自身以外の人物の役なら、なんでも面白がれる気はするんですよね。あえて言うならば、子供の頃にテレビで観たホームドラマ『時間ですよ』や『寺内貫太郎一家』のような、家族でわいわいご飯を食べながらくだらないことで怒ったり、ケンカしたりする家庭劇のお父さんかな」
ちなみに、私生活では大学生と高校生の息子を持つ、家が大好きな父親だ。仕事を終えたらすぐに帰り、毎晩ウイスキーを楽しむ。「一番リラックスできる時間」と、柔和な笑みを向ける。
「ウイスキーのお湯割りを飲みながら、セリフを覚えたり、パソコンでYouTubeを見たりして、しつこく寝ないで起きています。音楽はいろいろなものを3時間でも平気で聴いちゃう。最近は青江三奈さんの『恍惚のブルース』がいいんですよ~。スピッツの『楓』やレミオロメンの『粉雪』も大好きです」
元気の源は芝居と酒と音楽。そして家族。95歳まで長生きする目標を立て、90歳まで現役でいると小日向は決めている。あと27年、俳優人生は続く。
「60代になっても若いときと気分は変わらないことがわかったんです。だから、80歳になっても心の中は意外とスケベだったり(笑い)、考えていることはそんなに変わんないんじゃないかな。そう思うと、枯れたお爺ちゃん役もいいんだけれども、欲丸出しのお爺ちゃんとかも演じたいですね」
●こひなた・ふみよ/1954年生まれ。北海道出身。東京写真専門学校を卒業後、俳優・中村雅俊の付き人を経て1977年、演出家・串田和美が主宰する劇団「オンシアター自由劇場」に入団。1996年の同劇団解散後は、映像の分野にも活動の場を広げ、テレビや映画などに多数出演。2008年、『あしたの、喜多善男~世界一不運な男の、奇跡の11日間~』(フジテレビ系)で連続テレビドラマ初主演。2011年の主演舞台『国民の映画』で第19回読売演劇大賞最優秀男優賞受賞、2012年の映画『アウトレイジ ビヨンド』で第86回キネマ旬報ベスト・テン助演男優賞受賞。最新の主演映画『サバイバルファミリー』が2月11日より全国一斉公開。待機作は映画『LAST COP(ラストコップ) THE MOVIE』(5月3日公開)など。
撮影■初沢亜利、取材・文■上田千春
※週刊ポスト2017年2月17日号