「監督もそうですが、面白い先輩がたくさんいる現場でした。岸田森さん、田中邦衛さん、殿山泰司さん。みんな素敵で、どこか監督に似ていました。反骨精神があって、純粋だけど曲者で、ものづくりに誠実で。それでいてシャイ。素敵に壊れていて、素敵に屈折している。そういうのがかわいいですし、芝居にも説得力がある気がします。その空気感を体験できただけでもありがたいですね。
映画青年たちが集まって夢中で撮って、気づいたら素敵な映画が出来上がっていました。大人だけどやんちゃな、チャーミングな人たちで何かやらかしちゃった、というか。
喜八組は、とにかく自由なんですよ。型にはまった演技なんてクソくらえで、なんでもあり。立派な芝居をしても面白くない。監督も見て面白いと思ったらOKをくれる。頭で考えるより、まず体でやってみな、と。
喜八スピリットは今でも忘れないようにしています。あるテレビ局に行く時、監督の家の前の交差点を通るんです。その時に信号待ちで『喜八スピリット、お願いします』と言っています。
頭の隅に入ってるだけで、何かの時に喜八スピリットが降りてくるんですよ。そうすると、自分が手垢のついた芝居をしてしまった時に『いけねえ、いけねえ。これじゃダメだ』と気づくことができる。それで、『もっと壊そう』とか『違う何かはできないか』という発想が浮かんでくるんです。ありがたいです」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2017年2月17日号